——3

 これでいい。必要な状況をつくりだすことはできた。後は流れでというところで、しかし向こうの代表の男が食い下がってきた。

 なお——今、


 今——配信枠を俺たちは取っていて、そちらでは雛蜂が喋っていた。

『はいはじまりましたー! 今日ね! 今日……今日何するんだっけみんな⁉︎ ホラゲ……うん、墨華ホラゲする? あ、今日違うよ。おつかい配信だから! はじめてのおつかい。見て? 見てあげてっ。スイくん今一人で行ってるから』


「正気か⁉︎ どうかしてるぞ!」

「いいんだよ——ここには俺一人だが、俺が負けたらあいつらもそっちの下につく。問題あるか」



『おつかい安価して』

『右の子喋って』

『スイくんまだ生きてたんだ』



 ——※右の子は緋花のことだ。絶対に喋らずタブレットで参加している。



『ホラゲ』

『本当は今日ホラゲーだよ? 墨華』

『ホラゲー流れるたびに墨華震えてる』



 俺は……多分死ぬだろう。けれど、きっと訪れるその終焉は風梓雛蜂によってであり、今目前にいる奴らによってではない。

 相手は俺の考えていることがわからないでいるが、今。向こうからすれば意味不明でも、こっちはただ単純に、最も強い選択肢を選んでいるだけ。


「そんなことを言われて様子がおかしいと、話が変だと思わない奴がいると思うか!」

「……いいんだ」

「なッ——」

「面白くねェなぁ? 強そうなあの刀持ちが相手じゃねェとは。舐められてんのか? ン? でもまァァいいんじゃねェですかね。弱いのが出てくンなら」


 集団の後方から、あの少女が肩を揺らしながら進み出て来る。


「しかし……ッ」


 何か言いかけたようだったが退く代表の男を押し退け、少女が俺と向き合った——俺は言った。


「代表者同士の一対一。負けた方は勝った方の傘下に入る。ダンジョン攻略システムによって——俺たちの取引は口約束では済まず、結果に付随する処理としてギルドの全権が移譲される」

「ハハッ。——」

「——しかし、その前に一つ。わかってないな?」


 俺は発言を促すように沈黙し、入口を見た。そこには刀が突き立てられ、シンボルとして誰も出入りできないかのような効果を出している。


「うちの探偵は、最初から何もかもお見通しなんだ」


 今だ。来い——。祈ると何事だと周囲が恐々としだした瞬間、突如として——しかし起こるべき必然として、それは起こった。



「ッ‼︎」

「あァ? ——」


 

 踏んだ地面から縦揺が伝播するや、あっけない声が軽装な少女の断末魔になった。俺は素早くその場から退いている——狙われるのが果たして誰か、そう問題は、最初の一人が誰になるかだったが向こうの少女(※一瞬で死んだ)の頭上で最初にそれは起こった。

 突如頭上から空気が震撼し、降り注いだ衝撃が辺りの地面へ次々に亀裂を迸らせる。俺は攻撃を予期していた。だから間一髪で回避できたが、一瞬、様々なベクトルで放たれた同様の攻撃が何人か撫で切りにしたのを見た。


「——⁉︎」


 近くの地面で前衛の男がワンバウンドした——弾かれた体が衝撃波を受けてさらに跳ね返り、装備品や地面の破片が飛散する。

 だが——そういうことだ。俺たちは予期していたのだ。



「雛、澪、墨華、緋花! 今だ、やってくれ‼︎ ——全員に言ったからなッ」


 ——


「この話の発端はそもそも——『正体不明の襲撃者に主力をやられた攻略ギルドが俺を疑ってきたが、俺もその襲撃を受けた』というわけで、なら襲撃者は……一日空けて動画で喧伝までしたんだから、ターゲットが一同に会するこの場へ現れる可能性があった」


 俺は言った。


「狙いの相手が一堂に会するこの場所に、おまえが来るなら、隠れていても墨華の能力で判別はきく。結果はそんなことをする前に層の出入り口を塞いだ時点で自分から姿を現してくれた。首狩り狙いの初撃が背後から来ることも経験から俺はわかっていたから——そこにドローンを飛んでいると、やりにくいだろ?」


 四人立て続けの閃光、襲撃者は扉から刀を引き抜いた雛蜂の乱舞技を食らって最後にうめき、その姿を見せた。無傷ではないが俺は軽傷。


「多対一を恨むなよ——! おまえを倒しておかないとッ……俺たちの疑いが晴れないんでな⁉︎」


 場の主導権は取った。

 そして俺がこいつを引きずりだしたかったのは、あの時。俺を狙ってきたときに初撃だけで済ませた=とどめを刺さなかったのは確実に、俺の能力が効いているということだからだ。身内に取り込むことができれば攻略に一歩近づける。自前でレベル一五〇〇突破できれば、他と協調する必要はなくなる。


 ——

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