——3
強制イベントが開始されていた——。
俺の能力、自動発動する無意識の催眠で好感度がMAXになってしまうがために。
「わぁ。すてきなお店ですね! ここのお店って、有名なんですよっ。——何でだか、知ってます?」
会って五分後には道全体がテーマパークのようになった坂道にある瀟洒なカフェの一席にいた。注文は先のシステムなので、すぐに、『生の果汁と炭酸水が別々で来るタイプのレモネード』が……女の子の前にサーブされた。
「すっごく大盛りのパンケーキがあって、芸能人も食べに来るんだって! ……っ♡」
落としてしまったコーヒーのことを見ながら、一応礼儀として、(俺は立ち止まっていただけなので、常識的にも責任の割合問題的にも……『ああ! いいですよ。運の悪い日だなあ‼︎』となると思い——でも、一方ではそうならないこともわかっていて)弁償しますよ? と言った。
チートは常識を超越する。
紛れもなくそして——。
「私と二人でなら、全部食べられるかな——?」
こういうのなのだ。この能力を得て、俺がしたかったのは……しかし、しかし……え? 今、何と言った。はっとして顔を上げると、
「っ、お姉さーんッ‼︎⁉︎ はい⁉︎ おい、何だこのッ」
「見て見てっ。こんなに大きいんだよ? 五段重ねかな」
「頼んだのか‼︎ 一枚が厚い! な……何で生クリームを、絞るやつごと二個もテーブルに置いてくんだ⁉︎」
「上に載ってる、小鳥のアイスがかわいいね♡ 羽はホワイトチョコレートかな」
大きめのフライパンにひたひたに生地を入れて、たーっぷりとふくらませながら焼いたケーキが重なって運ばれてきた……!
粉砂糖がふられた表面に、大きなアイスで小鳥のマスコットつき——主か番人のように。
「これは、お絵かきする奴だよ。だけど——見て見て? 思いっきり絞り出して、かたつむりにしたっ!」
「進化してるんじゃありませんかね‼︎⁉︎ 本体の四倍くらいある、大きなお家が鳥についたが!」
「まだひよこちゃんだからね。いつかとっても大きな翼でこのお家から羽ばたくんだよ?」
「の前に食うだろ⁉︎」
「最初は一人、ううん一匹だったけど大切なお友達ができたり。生き別れの家族と出会ったり! ——っ、すてきな恋人ができたり?」
女の子は、クリームを搾り出す奴を両手で持って、わざとらしく小首を傾げながらペロっと舐めた。
「しないだろ⁉︎」
計算されたかわいさ——こいつ、想像以上にできている! 何者だ。
「じゃニートで終わりました、と」
「お家があってよかった……」
「親鳥もつくる?」
大人っぽい照明の施された店内から張り出した暗緑色の幌の真下、オープンテラスの特等席があるパリの一角を移設したかのようなカフェ。
周囲に目を逸らし……俺は憂鬱な気持ちになった。こういうことがしたかった。けれど、これは俺のしたかったことではない!
「あの、ええと? お名前を伺ってもよろしいですかね。何とお呼びすればいいか」
これは恋愛をしているのではなく、チートが効いているわけで——俺の能力は結局、俺の願いを叶えない。よく似た別物を与えてくれるだけ……今のように、最大限に上手く機能したとしても。
だが、俺が尋ねるときょとんとした顔になって、女の子は向かいの席からテーブルの下に潜ると(!)、俺のすぐ隣にぴょこんと顔を出して座った。
距離感が狂っている!
「とりつむり」
「違うッ、それじゃない——隣に⁉︎」
隣じゃない! 問題は前だった。女の子が隣にきて、前の視界が開いたせいで見えた。
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