新たな問題 3
ダニロとエンマをひとまず離宮へ連れ帰って、ダイニングで水を飲ましてやってから、アドリアーナは改めてダニロに事情を訊ねた。
コンソーラ町から急いでやって来て疲れているようなので、事情を聴いた後で食事ができるように、カルメロに軽食の準備をするよう料理長に伝えてもらう。
「それで、お父さんが殺されちゃうってどういうこと?」
それが本当ならばあまりに物騒な言葉だった。
ジラルドも表情を硬くしてダニロの説明を待っている。
「昨日、役人がたくさん来たんです。そして、お父さんが脱税? とかいう犯罪者だから連れていくって、来週、みせしめ? で処刑するんだって、言って……連れていかれたんです……!」
「脱税?」
「よくわかんないけど、お父さん、収穫の一部を隠していたんだってお母さんが教えてくれました。でもっ、それは食べ物がなかったからなのに、生きるために仕方なくしたことなのに、それも悪いことなんですか⁉」
話しているうちに感情が高ぶってきたのだろう。ダニロの目からぽろぽろと涙があふれ出し、それにつられてかエンマまで泣き出してしまう。
アドリアーナは言葉に詰まってジラルドへ視線を向けた。
現時点で、コンソーラ町の代官はルキーノ子爵だ。彼が国が定める税以上を町民から搾取しているのはわかっているが――収穫物を正しく報告せずに隠していたのは確かに脱税の罪に該当する。
(でも……)
ダニロにどう説明すればいいだろう。
ダニロの父に罪がないかと言われれば、法律上では罪を犯しているが、ダニロの言う通り、生きるために仕方なくしたのにそれを罪だと言ってしまうと、彼らには死ねと言っているのと等しいのではないかと思うのだ。
アドリアーナが何も言えないでいると、ジラルドがポンとアドリアーナの肩を叩いた。
「ダニロ、お父さんがしたことは確かに罪と言えることだ」
「ジラルド」
きゅっと体を強張らせダニロを見てアドリアーナが口を挟もうとしたけれど、ジラルドはそれを手で制して続ける。
「収穫量は、正しく報告しなければならない。それが決まりだ。それを破れば罪になる。それは覚えておいてほしい」
「……はい」
ダニロが、ぎゅっと唇をかみしめて小さく頷く。
ジラルドは立ち上がり、ダニロのそばまで行くと、その場に膝をついた。
「だけど、今回ダニロのお父さんが収穫物の一部を隠してしまった原因は、罪を犯さなければ生きていけないようなひどい税の徴収をしたこの町の役人たちのせいでもある。だから、俺としてはダニロのお父さんは罪を犯したけれど、それは殺されるほどひどい罪ではないと思っているよ。情状酌量――ええっと、罪だけど、今回は仕方がなかったことだから、その罪のほとんどは許されるはずだ」
「じゃあ……!」
「うん。お父さんは殺されるようなことはしていない。……アドリアーナ、この子たちを頼めるかな。俺は急いで書類を整えるから。来週ってことは時間がないからね。取りやめさせるにしても急がなくちゃ」
「そうね……」
処刑をやめさせるにしても、いきなり乗り込んでいってどうにかなるものではない。ブランカ公爵家およびオリーヴェ公爵家の権力を使えばどうとでもできるが、そういう強引な手法はあまり歓迎されたものではないので、使うにしても最終手段である。
おそらくジラルドはルキーノ子爵が強引な公開処刑に踏み切ろうとしている事実も使って、彼を罷免するように持って行くつもりだろう。
もともと証拠集めに奔走していたから、ある程度の証拠は集まっている。今回の公開処刑の件も合わされば、ルキーノは確実に罷免できるはずだ。
書類作成をジラルドに任せて、ダニロとエンマを励ましていると、料理長に伝言に言っていたカルメロが戻って来た。
「アドリアーナ様、ジラルド様あてに王都からお手紙が届いています。ブランカ公爵家からです」
ブランカ公爵家への手紙は、ヴァルフレードの指示で検閲が入れられる可能性を考慮して、ジラルドから出してもらっている。
差出人がグラートだったので、アドリアーナはカルメロからペーパーナイフを受け取り封を切った。
そしてざっと手紙の文面に視線を走らせて、思わずこぶしを握り締める。
(さすがお兄様、仕事が早いわ‼)
そして、これ以上ないタイミングだ。
アドリアーナはカルメロに急いでこの手紙をジラルドへ持って行くように告げて、ダニロとエンマに微笑んだ。
「大丈夫。絶対に処刑は防いで見せるから」
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