第47話 秀頼 大坂に現る

空想時代小説

今までのあらすじ 

 天下が治まり、日の本は諸大名の元、安寧の世の中になると思われた。

 朝廷より武家監察取締役に任じられた秀頼は真田大助と上田で知り合った僧兵の義慶それに影の存在である草の者の太一と諸国巡見の旅にでた。越後からいっしょだったお糸は琉球で火事にあい、亡くなってしまった。徳川家光は後継ぎとして駿府にもどって、本多忠刻が亡くなったため、徳川家再興となり駿府藩の藩主となっている。平泉から供をしていた元山賊の春馬は震災にあった土佐の村で好いたおなごができて、そこに残った。それに鳴門で秀頼を弟の仇と襲った加代が姫路から同行した。そして高取城から連れてきた者どもと一緒に伊賀上野の統治にあたり、3年後、伊賀上野を義慶と加代に任せ、秀頼は再び諸国巡見の旅に出たが、信州松本で盟友真田信繁の臨終に立ち会い、諸国巡見を終え、伏見に居を移すことにした。信繁の末娘おたきといっしょである。


 秀頼らは、伏見の屋敷に荷を置くと、すぐさま大坂に向かった。畿内探題の大野治友(31才)にこたびの伏見屋敷の御礼を言うためである。治友は父治長に似て堅実な性格であった。父治長の命で若い時に畿内の巡見をしていたとのこと。もちろん身分を隠してである。高取城にも出向いたことがあるとのこと。筒井家の軍勢の中にいたそうである。城の中にいてはわからぬことを身をもって会得したわけである。終始、和やかな雰囲気で大坂城での対面が終わった。

 問題はその後に行く母淀君との対面である。

 淀君(61才)は高齢のため、伏せっていた。病というよりは気力が衰えているという感じだ。

「秀頼、よくぞ戻ったの」

 その声は弱々しかった。

「母上、ご心配かけ申した。やっと戻ってまいりました」

「心配などというものではない。大助殿から時おり文がきていて、消息はわかっていたが、山賊や海賊とたたかったり、馬小屋で泊まったという話を聞いて、胸を痛めておった。どこにいるかは分からぬので、こちらから文を出すことはできず、やきもきしておった」

「諸国巡見は日の本を見るいい機会となりました。母上の心配はわかりますが、これからの日の本のためには大事なことでござった」

「それは大助殿の文にも書いてあった。それはわかるが、母の気持ちは子にはわからぬのであろうな。それよりも嫁御はどうなった。孫の顔は見せてもらえぬのか」

「それは、今度伏見の館で祝言を上げまする」

「相手はどこのご息女じゃ?」

「真田信繁殿のご息女です」

「信繁殿か、すると大助殿とは兄弟になるのじゃな」

「はっ、大助が義兄となります」

 そこで、淀君は笑みを浮かべた。

 その夜は、淀君と一晩を過ごした。かつての気丈な姿はなく、大声を出すこともなく、おだやかな老人になってしまっていた。そういう風にさせてしまったのは自分のせいだと思うと秀頼は心苦しかった。しかし、日の本の平穏のためには、いた仕方なかったのだ。親子の絆よりも大事なことがあると思うしかなかった。あのまま母の下にいたのでは、何もできなかったと思う秀頼であった。

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