7-28.ぜ、ぜ、ぜんめつぅ……
語ることはもうないとしぶるリオーネを相手に、ルースは辛抱強く質問を重ね、状況を聞き出していく。
交渉事はリオーネに一任しているのか、ナニとエルトはとても大人しかった。
怒りを抑えているギルド長を前に、殊勝にしているようにも見えるし、興味がないので、心の中では別のことを考えているようにも見える。
少し前までは怯え、緊張していたエルトも、フィリアの膝の上でリラックスしているようである。
思わず笑ってしまいたいほどカチコチに固まっていた身体が、じょじょに柔らかくなっていくのがよくわかった。
子どもたちは、自分たちの攻撃魔法でほとんどのゴブリンが消滅してしまったと言っているが、一体、どんな魔法を使ったのか……。
ギルド長でなくとも、聞いていて頭が痛くなる話である。
誰もが子どもたちの話にドン引きしていたが、魔法に精通しているミラーノとエリーの様子が、さきほどからおかしかった。子どもたちの異常さが、よくわかるのだろう。
会話に口を挟みたいのだが、ギルド長の手前、それができずにモヤモヤ、ヤキモキしている気配がする。
風化が進んでいたとはいえ、砦は跡形もなく消滅した。
その焼け野原、死屍累々状態の中から、子どもたちはできるだけ綺麗なゴブリンの遺体を探し出し、耳を回収したという。
「……ちなみに、どれくらいのゴブリンが跡形もなく消滅したのかな?」
質問するギルド長の声が冷たい。
「うーん? 半分くらい? より、もうちょっと多かったかな?」
「……七割ほどの消滅を把握した」
もっとしっかり数を把握しろ、という雰囲気を漂わせながら、面倒くさそうにナニが訂正する。
「おれは、必要な耳だけを回収して、さっさと帝都に戻ろうと思ったんだけど……。ナニが魔物石も回収するって言い出したときは、ちょっと困ったなぁ」
「ナニねーのわがままにつきあってたから、時間がかかった……」
一体、どんなタイムスケジュールで行動したのか……問い詰めたいところだが、子どもたちはそこまで細かに覚えていないだろう。
それはルースも感じているのか、無言のままスルーする。
「遺体を放置すると、獣や他の魔物が集まると聞いていたので、残っていたモノも全て集めて焼き払った」
「や、焼き払った……?」
もう、どうやって集めたのかは、あえて聞くまい。
過程にまでいちいちつっこんでいたら、いつまでたっても話が先に進まない。
それよりも『焼き払った』という単語に、ルースは嫌な気分になる。
「そう。焼き払った。ゴブリンは素材としては不適切と聞いていた。だから、遺体を綺麗に消滅させた後に、残った魔物石を回収した。めぼしいものは回収したが、時間が足りなくて、半分くらいしか回収できなかった」
「あれで半分ねぇ……」
ルースはソファに身を沈め、子どもたちが話した内容を検討する。
『綺麗に消滅』させるためには、どのようにして『焼き払った』のか……できることなら詳しくは知りたくない。
ちびっ子たちの報告は……嘘ではないだろうが、どこまでが本当のことなのかも怪しいところである。
過大報告であるなら、またひとつ雷を落とすだけでよいのだが、この子らの場合、過小報告もありうる。
子どもの話をどこまで信用するのかの判断が難しい。
ただ、どちらにしろ被害が甚大で、後始末が大変だということだけは間違いない。
痛む胃をさすりながら、ルースはトレスに視線を向ける。
「……トレス、魔物石回収の依頼も追加だ」
「承知いたしました」
「聞き取りの内容と、査定部門からあがった報告書の数を加味した数量と、調査段階でのゴブリンの総数との誤差はどうなっている?」
「ギルド長、ざっと算出したところ、誤差は微々たるものかと……。今回、討伐対象としてあがっていたゴブリンの王国は、全滅したと判断しても差支えない……かと思います」
書き留めていた記録と、査定部門からあがった報告書を見比べながら、トレスが事務的な口調で答える。動揺からまだ立ち直れていないのか、語尾が少しだけ震えていた。
「ぜ、ぜ、ぜんめつぅ……」
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