3-3.やってみないことにはわからないぞ!

「いつまでもここで立ってても仕方がないし、中に入るとするか」


 そう言いながら、ハヤテは冒険者ギルドの入り口へと足を向ける。


「わあ……。冒険者ギルドって、どんなところなんだろうね?」


 握られている手をぎゅっと握りかえしながら、セイランは隣りにいるカフウを見上げる。


「冒険者ギルドの本棟には、階段を使わずに移動できる、便利で高額な『垂直移動装置』の魔道具が設置されているから、すごく楽しみ」


 その言葉を聞いたハヤテの足がぴたりと止まる。


「いや、カフウ……おれたちが行くのは、一階の受付窓口だから、『垂直移動装置』は使わないし、下っ端な冒険者は、見ることも、拝むことも、使うこともできないんじゃないか?」

「うそ……」


 ハヤテの指摘に、カフウはしょぼんとうなだれる。


 フードで隠れて見えないが、彼女の少しだけ尖った耳は、ぺたんと下に垂れ下がっているにちがいない。


 あまりの落胆ぶりに、ハヤテは慌てふためき、セイランはハヤテへとすがるような眼差しを向けた。


「ハヤテにぃ、その言い方はひどいよ。カフねーが可哀想だ……」

「う、うん……ごめん。悪かった」

「ハヤテにぃ、なんとかならないの?」

「え……」


(なんとかって……なにをどうしろと?)


 弟の無茶振りにハヤテは絶句する。


「そんなこと言われてもだなぁ……」

「カフねーが可哀想……」


 セイランも一緒になって項垂れる。


(なんで、なんでなんだよっ!)


 いきなりな展開にハヤテは叫びたくなるのをぐっとこらえる。


(まだ、冒険者ギルドの中に入ってもいないのに、なんで、こんなことになるんだよ!)


 元気をなくして項垂れている妹、弟を前に、ハヤテは途方に暮れてしまう。


 通行人は忙しく自分たちの横を通り過ぎていくが、冒険者ギルドの前で微動だにしない三人の子どもたちを不審がる目線がだんだんと増えてきている。


(いいかげん、中に入らないとマズイ……)


 カフウとセイランの落ち込みようがあまりにも真に迫った……切迫した気配をかもしだしていたので、人々の注目を集めはじめていた。


 立ち止まって、こちらの様子をうかがっている大人たちが、ひとり、またひとりと増えていく。


(と、とりあえず、誤魔化すんだ!)


「だ、大丈夫だ。おれたちが本気をだしたなら、すぐに『垂直移動装置』が使えるレベルになれるさ!」

「ほんとうなの?」

「根拠のない情報」


 カフウとセイランの疑いに満ちた視線が痛い。

 口からでまかせを言っているのがバレバレである。


「うううう、うそかホントのことかは、やってみないことにはわからないぞ!」


 苦し紛れのハヤテの発言に、カフウとセイランのふたりは、はっとした顔で互いの顔を見合わせる。


「それは真理」

「ハヤテにぃの言うとおりだね。やっぱり、ハヤテにぃはすごいね!」


 ふたりの立ち直りの早さにハヤテは、安堵のため息をもらした。


「いつまでもここで立ってても仕方がない」


 ハヤテは仕切り直しとでもいいたげに、さっきも言った言葉をもう一度、繰り返す。


「いいか? 中に入るぞ?」

「心の準備はできている」

「うん。はやく入ろうよ」


 元気になったふたりを見て、ハヤテの気持ちも上向きになる。


「これからオレはリオーネだ」

「わたしはナニ」

「ボクはエルトだよね?」

「うん。そうだ。エルトは女の子だぞ」

「……わかってる」


 ハヤテいや、リオーネの指摘に、エルトという名前の少女はぷくっと頬をふくらませる。


 そんなに嫌なら、ギンフウのトコロで大人しく留守番しておけばよいのに……と言いたいところだが、その『嫌なこと』を我慢してまでも、自分たちと一緒に行動したいと思っているセイランの気持ちは、純粋に嬉しい。


 弟の健気で可愛い反応に笑いながら、ハヤテは冒険者ギルドの大きな扉を両手を使って押し開いたのであった。



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