3-1.ドラゴンに踏まれても大丈夫
「さあ、ついたぞ。ここが帝都の冒険者ギルドだ」
「うわあ……ぁぁっ。お、おっきい……」
どこからどう見ても、黒髪の少女にしか見えない黒髪の少年は、大きな声をあげると、目の前にそびえる巨大な建物を見上げた。
がんばって頭をあげて上体をそらし、建物全体を視界におさめようと足をふんばる。
「でかいだろ? 各国の冒険者ギルド本部も兼ねる建物だからな。地方のギルドとは規模がぜんぜん、ちがうんだぜ」
リオーネと名乗るように命じられた赤髪の少年ハヤテは、冒険者ギルドの建物の前で得意気に胸を逸らす。
「ところで、セイラン、身体の具合はどうだ? 疲れていないか? どこか苦しかったりしないか?」
「ハヤテにぃ、ボクなら大丈夫だよ」
その元気な返事にハヤテは「それならいいけど」と頷く。
セイランの頬が少し上気しているように見えるのは、この外出に興奮しているからなのか、とハヤテは自分自身を納得させる。
「帝都フォルティアの冒険者ギルド本部には、『ドラゴンに踏まれても大丈夫』というキャッチコピーもある」
「へぇ……」
ハーフエルフの少女カフウの説明に、セイランは感心したように頷く。
ナニと名乗るように命令された魔術師のカフウは、言われたとおりにフードを目深に被り、オトウトのセイランを護るように立っていた。
迷子になってはいけないと、カフウは『酒場』をでてからはずっと、セイランの小さな手を握りしめたままだ。
「冒険者ギルドは、魔法で強化された建物。目の前の建物は、地下二階、地上五階となっている。」
「すごいなぁ……。こんなに見上げるくらいの建物だったんだ」
セイランが再び感嘆の声をあげる。
長い前髪で顔のほとんどが隠れてしまい、表情はわからないが、小さくて可愛らしい口が、ぽかんと開いたままになっている。
きっと、すごく驚いているのだろう。
そして、とても喜んでいる。
現在、ハヤテとカフウは、ギンフウの部下たちに連れられて、帝都の地形を身体で覚え込まされていた。
いまではストリートチルドレンしか知らないような細い裏道までしっかり把握しており、主要な施設への最短導線も一瞬でわりだすことができるようになっている。
次の段階として、魔法を封じられ、視界が奪われたとしても、迷わず目的地にたどり着く訓練をふたりは重ねている。
しかし、ふたりよりも二つほど年下になるセイランは、よく高熱をだして寝込んでいたこともあり、その訓練には参加していなかった。
外の世界にでるということ自体が少なかったのだ。
冒険者ギルドは、セイランにとってはじめて訪れる場所である。
見上げるような高さの堅牢な建物を前にして、セイランは圧倒されるばかりだった。
ただただ驚くばかりである。
冒険者ギルドの前で立ち尽くしている三人の子どもたちを、すれ違う人々は不思議そうに眺めながらも立ち去っていく。
「大きいなあ……。なにもかもが大きい」
「冒険者ギルドはこの本棟の他にも、訓練場や研修用の教室棟、昇級試験のための試験会場、魔物の解体場や馬小屋、魔獣舎、倉庫などが併設されている」
「広いんだねぇ」
「確かに、帝都の冒険者ギルドは広いな。でも、敷地面積なら、皇帝の居城である皇城や、貴族学院の方がめちゃくちゃ広いんだぜ」
「ええっ? ここよりも、もっと広い場所があるんだ! すごい!」
と驚いた声を発する黒髪の少女に、ほかのふたりは次々と自分が知っていることを披露していく。
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