死人の俺が青春してるなんて誰も思わない
りほこ
第1話 詰ん……でない?
「は……?」
目の前で俺が寝ていた。しかも道路なんかで。
少し離れたところでは、青いオーバーオールを着た子どもが泣きわめいている。どこかに怪我をしているのか、真夏の日差しに熱せられた歩道の上で、痛いよ痛いよとしきりに叫んでビービー泣いていた。
しかしどう見ても俺の方が痛そうだった。
おかしな向きに曲がった手足と、ズルズルに剝けた皮膚。
まるで地面に叩きつけられた後の水風船みたいに、俺の潰れた身体からはどくどくと血が流れ出ていた。
そのビジュアルは16年間付き合ってきた自分でも直視出来ないくらい最高にキモかった。
「ああ理解した。死んだんだ、俺。あの煩いガキを助けた代わりに」
自覚した途端、喪失感に苛まれる。
今にも膝から崩れ落ちそうだったが、自分を
近くで追突を起こしているのは、きっと事故に巻き込まれた人たちだろう。
俺を轢いた車はない。あれは……白い小型のセダンだった。
でも見当たらない。まさかひき逃げ——
くそ! なんだってこんなところにガキが一人で居る? 親はどうした? それとそこで腰抜かしてるおっさんは、もう駄目だ間に合わないとか言うなっ。今だってこうして俺は意識があるし、まだ病院に行けばワンチャンあるかもしんねーだろ? ビビっていないで早く救急車を呼べって!
焦りからか、目につくもの全てに腹を立ててしまう俺。そして怒りに相乗作用するように
“このまま死んでたまるか!”
けどその諦めの悪さが良くなかったらしい。
俺は成仏出来ずに、この世に
一応弁明する。俺だって必死に試みた。
でも道路で転がるぐちゃぐちゃな俺に何度も起きろって訴え掛けてみても、何度も身体を這わせて重ねてみても、全然……全然駄目だったんだ。
病院どころか、救急車で搬送されている最中にご臨終だって言われたんだ……。
車には乗れるのに隊員には触ることも出来なくて、声が出るのに誰の耳にも届かなくて、本当まじで気が狂いそうになった。
まぁ唯一救いなのは、あのガキがちょっとした擦り傷で済んでいたことだろうか。
「あーあ。これからどうすっかなー」
見覚えのない親戚がたくさん集まる葬儀場を後にした俺は途方に暮れる。
燃やされるまでは生き返れるかもしれないなんて考えはもうない。
泣き顔は散々見た。
だからしばらくは両親と離れたい。
そう思って自然と足が向いたのは、なぜかあの事故現場だった。俺は自縛霊にでもなっちまったのだろうか……。
「女子!」
女子高生が居た。
通行人に好奇な目を向けられる中、女は俺の血痕の
器用に短いスカートを太ももの裏で挟む彼女の前には、小さな花束が手向けられていた。献花ってやつだろうか。
「え……俺のため、だよな? まじ?」
彼女は目を開けると花束を拾った。置いていくと迷惑だからか?
そして立ち上がって、交互に花束を胸の前で持ち替えながら頬に落ちたショートボブの髪を耳に掛け直したり、スカートの裾を軽く払ったりした。
「やっぱ短けー。見えそ~」
肉付きのいい臀部を包むそのスカートからは、ほっそりとした脚が伸びる。靴下は涼しげに足首が隠れる程度。同じく涼しげな半袖のスクールシャツは生地が薄く、中に着た淡い水色のキャミソールが少し透けて見えていた。
回り込んで正面から顔を確認すると、なかなか可愛い。胸もそこそこでかい。俺は決めた。
「よし、こいつに憑りついてやるか」
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