欲望と復讐の果てに
tamaちゃん
第1話 愛する夫
現在36歳の美咲は何と……東京芸大卒のバイオリニスト。海外への留学経験もある日本屈指のバイオリニストだ。アルバムを発売したりテレビ番組のテ-マ曲の作曲と自ら演奏をしたり、また作曲家でもあるのでアイドルに作品を提供もしている。
一見華やかな世界に身を置く存在だが、世の中そんなに甘くない。いくら東京芸大卒のバイオリニストと言えども、コネも何もない美咲は最近は裏方に徹している。
それでも…才能あふれる美咲の年収は、同年代の女性が逆立ちしても届かない高収入を叩き出していた。
そんな美咲の目の前に現れた男が4年前に結婚した夫で、会社経営の夫大輝だった。元来美咲は天才肌で一つの事に集中すると周りが見えないタイプ。思い込んだら命がけ。こうして…付き合い出して僅か3ヶ月と言う超スピ-ドで結婚していた。
だが、こんな性格が災いして想像も出来ない泥沼にはまって行く事となる。
◇◇
夫大輝と出会いのきっかけはマッチングアプリ(オンライン上で「恋人」や「結婚相手」を探すアプリ)だった。
それと言うのも美咲は子供の頃から人見知りで、中々思うように人との交流が出来ない根っからのオタク気質の女の子だった。だが、そのくせ人一倍寂しがり屋。こうして…寂しさに耐えきれずマッチングアプリに登録した。
そんなある日アプリに「お友達から始めませんか?」とメールして来たのが大輝だった。こうして…LINE交換から始まり次第に会うようになって行った。
最初に会った時の第一印象は余りのイケメンに驚いたのと同時に、会社経営と聞き二度驚いた。(この若さでこれだけのイケメンで尚且つ会社経営とは凄い!)
だけど余りにも立派過ぎて気が引けて、こんな自分では到底釣り合わないと断った。だが、そんな美咲の心を溶かしてくれたのが大輝だった。
「何を言っているのですか、才能あふれる美咲さんこそ僕には勿体無い」
こうして…大輝との交際は始まった。
◇◇
大輝との交際は夢のような日々だった。
社長の車と言えばメルセデスベンツ、それを乗り回して颯爽と迎えに来てくれる大輝。またルックスは高身長に加え、それこそ……女子にも勝る美貌と、一時期超有名になった世界で1番と言わしめた男の子のモデルで、ウィリアム・フランクリン・ミラー君に似た目元の超イケメン大輝は、彫りの深いチョットハ-フっぽい青年だった。
そんな男に惚れない女がどこにいようか、一瞬で夢中になってしまった美咲は、大輝の強引さに負けてあれよあれよという間に結婚した。それと言うのも美咲は不幸な事に両親と死別していた。
どういう事かと言うと、実は…両親は地方都市静岡で1人っ子美咲の手が離れた事もあって、悠々自適の生活を送っていた。そして何より旅行が趣味の2人は、ある時は海外旅行に、またある時は車であちこち旅行に出掛けていたのだが、その旅行が祟り不慮の事故で10年前に他界していた。
誠にショックな出来事ではあったが、両親の残してくれた財産や多額の保険金のおかげで生活には困らず生活を送っていたが、それでも…一度に両親2人を失ってそのショックたるや想像を絶するものがあった。そこでその寂しさを埋めるためにマッチングアプリに登録したのだ。
そして…その寂しい心の大きな穴を埋めてくれたのが大輝だった。
◇◇
結婚生活は思い描いていた通り夢のような生活には変わりないのだが、大輝は1ヶ月の半分は仕事で海外に出向いている。仕事もアパレルメーカー「バービ-ズ」の社長らしくハイセンスで会社の新作を着こなし、そのルックスにたがわぬ大輝自身が働くモデルとして、機能していると言っても過言ではない。
そんな絵に書いたような幸せな結婚生活を送る美咲ではあるが、腑に落ちない点は幾つかある。だがお嬢さん育ちで世間知らずに加え、オタク気質の仕事人間で仕事に集中するあまりに何も気づかず歳月は流れた。
例えば社長である夫大輝は、生活費と言っても美咲が高収入を稼ぎ出してくれることを良い事に、生活費をあまり入れていない。それでも…その理由は大輝が月の半分以上を海外で仕事に携わっているので致し方無いと言えば仕方ないのだが、それでも2人の間には子供もいるのだから……。
◇◇
そんなある日ママ友である百合からとんでもない話を聞いた。それは夫大輝の事だった。
「大輝さんを見掛けたけど……あるマンションに女性と入って行ったので不審に思い付いて行ったのよ。するとね……苗字が全く違う外国籍だったのよ」
「何を言っているの?百合の見間違いに決まっているわ」
(それでも…もしかして……?愛する夫大輝に女がいるなんて許せない!)
そう思い教えてもらったマンションに行ってみた。だが、そこは既に引き払われた後で誰も住んではいなかった。
(まさか……あんなに家族思いの、仕事熱心な大輝に女なんかいる筈が無いわね)
そう思い肩を撫で下ろした美咲だった。
◇◇
「ジョセフあの女にはバレていないのね?」
「当たり前じゃないか」
この話が意味するものとは?
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