私の優しい英雄

ごっつぁんゴール

私の優しい英雄


 クエストの受注を済ませてギルドを出ようとして、スイングドアの近くまで来たところで小柄な物がぶつかってくる気配を感じた……回避……チッ反応しちまった!軌道修正……


「いったぁーい」


「むぅ、すまんな」


「いてて……こっちこそゴメンナサイ」


 革の肘当てと膝当てで四肢をガードして革の胸当てで貧相な胸、おっと失礼……を守ってる。いわゆる駆け出しの前衛職で盾無しだから多分斥候系かな。


「ほれ嬢ちゃん捕まれ……」


「ありがとう」


 俯いてた顔を上げて差し出した手に掴まる。その顔は懐かしい見覚えのある顔で、驚いて手を放してしまった。


「アン「あいったっー!おしり打ったー」……ああ、重ねてすまんな?」


 動揺を隠して再度手を差し出すと恐る恐る掴まって立ち上がる。


「おじさん?さっきのは無いんじゃないのかなー」


「すまんちょっと知り合いに似てて驚いてな」


「そんなこと言って、私が可愛いからって見惚れちゃった?」


「あーはいはい、そうだな可愛い可愛い」


「ブー、適当な言い方ー」


 この出会いが縁で、すれ違ったりするときに挨拶を交わす仲になった。


「おじさん、こんにちはー。今からクエストですか?」


「ガイさんチース!なんちゃってーみんなのマネー、フフフ」


「あーガイさんガイさん!聞いてくださいよー」


 不思議な娘だな……するっと懐に入ってきて、しかも俺がそれに拒否感を持っていない。

 まるで彼女の……アンナの生き写しのような容姿に、人懐っこい笑顔。俺とアンナに娘が居たらこんな感じの娘になるのかな……


 その感触に違和感を感じた俺は、それとなく本人に聞いてみた。


「ご両親は可愛い……ハハハ娘の君が、こんな因果な仕事をすることを了承してるのかい?」


「茶化してますね?……実は母は亡くなってるんです」


「ああ、それは悪いことを聞いたな……」


「良いですよ、もう2年になりますし……」


「そうか……それで、父君は?」


 聞いた瞬間に怒気が放出される。ついつい身構えてしまいそうになるほどの強さだったが一瞬でかき消えた……何だったんだ?


「ガイさんは、「ガーランド・イシュー」って知ってますか?」


「!……そりゃあ、この国でこの稼業やっててその名前を知らないやつは居ないだろうさ」


 ここでその名前が出るということは……


「私の名前は「カレン・イシュー」です。母は「アンナ・イシュー」私はガーランドの娘です……」


 やっぱりか。そうか……アンナ、君はもう居ないのか……それに「ガーランド・イシュー」お前はこんなにも俺につきまとうのか……






「ガーランド・イシュー」


 この国の冒険者の頂点であったゴールドランクのパーティ「深淵」のリーダーで、この国最強クラスの魔法剣士。流れるような剣技と前衛でありながら上級魔法使いも真っ青な魔法を操り、彼の特殊ジョブ「侍」の特性である「気」を使った攻撃も合わさって攻撃に関しては右に出るものの居ない存在だった。


 そのうえ彼のパーティは迷宮前人未到の59層到達だけではなく、屋外未踏破地区での稀少種の採取や保護、国内最大の密輸盗賊団「スプリガン」の壊滅と癒着していた複数の貴族の掃討の指揮、隣国との戦争「二年戦争」の終戦協定締結への尽力、国王杯争奪大喰い大会の個人の大会記録と団体での連続入賞記録の保持、と活動に制限がない。

 彼らのパーティの行動理念は「自分がやりたいことに仲間を巻き込む」だった……


 そんな規格外のパーティも年月には勝てなかった。あるドラゴンとの戦いの際、パーティの魔法使いが死亡。寺院での蘇生も加齢による生命力の低下のために失敗、その事に悲嘆した魔法使いの妻だったパーティの斥候職が離脱。それに伴ってパーティは解散しそれぞれの道を歩むことになった。


 あるものはギルドの重鎮に

 あるものは国の守りの要に

 あるものは神の教えの庭に


 そして「ガーランド・イシュー」は何処かへと消えていった……






「ガイよ、1つ頼まれてくれねぇか?」


「なんだ、ハンスまた面倒事か?」


「ちげーよ、1人ひよっ子の面倒を見てほしいんだが……」


「やっぱり面倒事じゃないか……」


 俺がため息を吐くと、ハンスがバツが悪そうに、


「すまんな……だがお前の知らないやつってわけでもない」


「誰だ?」


「カレン……知ってる娘だろう?」


「てめぇ……」


 俺は怒気を含んだ殺気を飛ばす、だがハンスは気にすることもなく、


「そう怒るな。アンナちゃんの忘れ形見だ……ヘタなやつに預けたくない」


「知ってやがったのか……しかし彼女はパーティに入っていたはずだが?」


「壊滅したよ……第5層だ」


「新人殺しか……」


「頼めないか?」


 こうやって頼んでくるということは心が折れて引退とはならなかったということか……そうなってくれたほうが安心だったんだがな。


「分かった請けるよ」


「そうか……助かる」


「ただ、この仕事が終わったら引退する」


 前々から考えていた事をハンスに告げる。この業界で俺はもうロートルだ……長居し過ぎた。


「……分かった、俺の権限で許可しよう」


「悪いな、お前だけ置いていっちまうが……」


「フン、俺は好きで残ってるんだ気にするな」








「よろしくお願いします!」


「パーティが壊滅した割には元気だな?」


「はい……皆から貰った命です、しっかりと前に進みます!」


「皆から貰った命だ、大事に平和に生きるって道もあるぞ?」


「いえ!皆と約束したんです、未踏破層まで行ってみせるって!」


 簡単に言ってくれるな……まあ心意気としては良しといったところか、落ち込まれてても心苦しいしな。


「では行こうか」


「あれ?他の人は?」


「ん?要らないだろ?今日は第1層に行くだけだぞ」


 俺の言葉にキョトンとした顔をしている、その後ちょっと不機嫌そうに、


「これでも私はレベル9になってるんですよ?」


「?、それがどうした?」


「いまさら第1層に行く必要ありません!」


「ほう、つまり第1層など楽勝と?」


 俺がちょっと煽ってやると、


「当たり前です!」


 簡単に乗ってきた、チョロいな……心配だなこのチョロさ。


「そうか楽勝か……」


「はい!なのでもう少し下の階「なら1人でやってもらおう」はい?」


「第1層で1人で戦ってもらう。余程ヤバくならないと手伝わないからそのつもりでいてくれ」


「えっと、私前衛職なんですけど?」


「うんそれが?楽勝なんだろう?」


「楽勝ですとも……」


「では行くぞ」






 今6体のオークと戦闘している、もうちょっと苦戦するかと思ったが良くやっている方か?1度に2体を相手取っているし、他の4体にも出来るだけ気を配っている。レベル9ならこんなもんだろう……戦士ならな


「どうした?相手は1グループのオーク程度だぞ?レベル9なら無傷で倒さなきゃ」


「無茶言わないでください!」


 多分彼女のパーティは優秀だったのだろう……だから誰にも師事せずに第5層まで行けてしまった。そのせいでなんの情報も持たずに第5層の新人殺しにぶつかってしまい壊滅した。

 だから俺は彼女を1から叩き直す。戦闘のイロハから叩き込む、そして中堅どころのパーティに放り込んで俺の仕事も終わりだ。あとはアンナの娘とはいえ彼女の人生だ好きに生きさせるさ……


「終わりました……」


 おお、勝ったか。助けに入るつもりだったのに。やっぱり優秀だな……


「君は魔法剣士だよね?なのに君の戦い方は戦士のそれだった、魔法剣士なら今の戦い無傷で勝てたはずだ」


「っ!なんで私が魔法剣士だと分かるんですか?」


「そこからか……前衛職なのに盾無しで斥候職かと思ったがロングソードを使ってる。そんな前衛職は魔法剣士しか居ない。エリート職は基本転職組だが稀に先祖から遺伝することもある、君はガーランドの娘だあり得るさ」


 杖をふりふりしっかり説明してやると、納得したのかしきりに頷いている。


「魔法剣士ならどうやったら今の戦い無傷で勝てましたか?」


「あーそうそう今の戦いなら俺でも無傷で勝てるぞ?」


「は?そんなわけありません!ガイさん魔法使いですよね?レベルが私より高くても近接攻撃出来ないじゃないですか!」


「基本正解だ、魔法使いはは苦手だが、近付く前に魔法で焼き払う事は出来る」


「あーなるほどそうですよね。わざわざ相手の間合いに入る必要ないですもんね!でも今の私ではその手は使えません……」


「使用回数か?」


「そうです、グループ単位を攻撃できる魔法は第3階梯ですが私はその階梯はまだ1回しか使えません……切り札は最後まで残しておかないと生き残れません」


「別に第1〜第2階梯の魔法だけでも魔法剣士の君なら無傷で勝てるだろう。そのやり方を教える」


「有るんですかそんな方法!第1階梯なんて基本魔法で?」


 驚いたように目を見開く、表情豊かだな……


、「まあ見ててくれ、手本を見せるから」


 


 都合よく7体グループのオークの群れを発見。俺は無造作に近付いていく、カレンが固唾をのんで見てるのが分かる。

 オークと接敵し2体のオークが攻撃してくる。俺は詠唱しながら魔法の杖で1体のオークの進行方向をズラしやり過ごす、そのままもう1体の攻撃も杖で受けるそして魔法を発動させる。おっと全員に効いたみたいだ。ラッキー、


「こうやって眠らせてしまえば良い」


「今、攻撃を捌きながら詠唱しました?今までやったことないです……」


「動きながらの詠唱は魔法剣士の基本だな、高位の魔法使いもやるがね。君は転職組ではないからな、知らなかっただろう?」


「はい……最初っからこれを知ってればみんなは!」


「いまさら言っても仕方ない」


「はい……」


 オークが全員起きてくる、


「よしやってみろ」


「はい!」


 ……1回見本を見せただけでこれか、やはりスジはいいな。


「君は第1階梯の魔法をバカにしていたが、この眠りの魔法は上位の魔物相手でも通用する重要な魔法だ。どんな体勢でも詠唱出来るように修行しろ。そしてあと何回唱えられるか常に把握していろ。しばらくは第1階梯の残り回数で撤退の判断をすること!」


「はい!」


 ふむ、素直だな。これなら明日以降はやりやすくなるかな?







 待ち合わせ場所へ向かっていると前方で言い争う声が聞こえる。声の片方はカレン……もう片方はあまり良い噂を聞かないパーティの連中だな。


「なぁカレンよぉ俺達と組もうぜ、悪いようにはしないからよ」

「あんなロートルより俺達のほうが良いこと教えてやれるぜギャハハハ」


「なんで私があんたたちなんかと組むのよ!てか魂胆が分かりやすいくらい見え見えなのよいやらしい!」


「なんだ?あのオッサンの手管にメロメロか?」


「ガイさんをそんなふうに言わないで!」


「おいおいマジか?クククッやるな、あのオッサン……カレンを落としたのかよ」

「そんなにあのオッサンのフニャ◯ンが良かったかよ?ギャハハハ」


「………………プチン」


 あっカレンのやつキレやがった。さすがに止めなきゃな……


「あっこいつ詠唱始めやがった!」

「マジか魔法剣士かよ?」

「た……たす……助けて!」


 あのバカ持ち魔法中最大の攻撃魔法を唱えてやがる。たくっ、スクロール使用!間に合え!


「焼き尽くしてあげる…………あれ?」


「スクロールが効いたか……」


「あ……あっう……たす……かった?」


「フン、フニャ◯ンで悪かったな?もう良いだろう?行け……」


「て……てめぇらおぼえてろ!ぜってぇやってやる」


 定番の捨て台詞を吐いて逃げていく輩どもを放置してカレンのところに行く。


「あっ……ガイさん……ゴメンナ痛い!」


 謝罪も聞かず杖で頭を殴る。


「お前だって掟は知ってるだろうが!なぜ屋外で攻撃魔法を唱えた!?」


「だってガイさんを侮辱したんまた痛い!」


 再度今度はゲンコツを落とす。


「言い訳は聞かん!」


「ガイさん理不尽!」


「うるさい!戦争時以外の屋外での攻撃魔法の使用は例外なく死罪、俺が沈黙のスクロールで止めたけどそれでもグレーだ。なぜそこまで厳しいか知ってるな?」


「屋外での攻撃魔法は10倍に威力が増幅されるから」


「そうだ、お前程度の術者の大炎でもあいつらを焼き尽くす威力が出るだろう……止められて良かった」


「あう……ごめんなさい……」


「君が死罪にならずに済んで良かったし、人を殺さずに済んで本当に良かった……」


 頭を撫でてやるとポロポロと涙を溢れさせながら抱きついてきて、


「ごめんなさい、ごめんなさい


 まるで叱られた幼子のように謝りながら泣きじゃくった。



「すみません、お恥ずかしいとこ見せちゃいました」


 よほど恥ずかしいのか、こちらの顔をまだ見ることが出来ないようだ。


「かまわない、お父さんは待ってるよ。クククッ」


「あー!まだ言いますか?ガイさん意地悪です……」


「クククッすまんな。迷宮に入る、気を引き締めろ」


「はい!」







「さて、いよいよ最終試験だ」


「はい」


「これをクリアすれば独り立ちだ。もう一度パーティを募って第5層攻略に乗り出しても良いだろう」


「はい」


「やってもらうのは昨日話した通り、ここから第5層まで1人で行って帰って来る。俺は手を出さない」


「はい」


 ん?なんか元気ないな緊張してるのか?まあそれも含めた最終試験だ。


「よし、でははじめ!」




 うん、なんの危なげもなく第5層まで降りてきた……さっきから離れず付いてくる気配が気にはなるがこのまま行けばクリアだな。


 第4層に戻って最初の部屋に入った瞬間、結界に入ったとき特有の違和感を感じた。


「ガイさん……この感覚って?」


 気付いたか、やはりいい感性している……


「試験は中止だ……これは封魔結界だな」


「封魔結界?」


「そうだ、もう少し下の階層から出現する魔法を封じる結界だ。これに入るとその階層を抜けない限り魔法は使えなくなる……しかもこれは人為的に結界を発生させる違法な結界具だな……出てこい!居るのは分かっている!」


 前方の扉と後方の扉から、それぞれ4人ずつ入ってくる。地上で揉めたやつが居ることから奴らの仲間であることが分かる。前方の1人……強いな。カレンの手には余るか……てか魔法を封じられたのは痛いな……仕方ない。


「カレン」


「はい、魔法も使えないので私がガイさんを護ります!」


「カレンいいか?今から俺が行うことはできれば見ないでほしいんだ……」


「ガイさん?」


「さっきからなに威勢の良いこと言ってんだ?あんたが手練れなのは知ってるが、魔法を封じられたら何も出来ないだろうが!さっきの借りだ、あんた殺して女はひん剥いてやる……覚悟しな!」


「ギャンギャンうるさい犬だな良いから黙れ……」


 俺は杖を構える、それを見た一番強いと思われる男は、


「嫌な構えだな……お前らかかれ」


 ちっ勘のいい奴だな……やり辛い。仕方ない、いきなり切り札切ってやる!俺は流れるように動いて突出していた1人の腕を、杖に仕込んでいた「刀」で斬り上げ切断、返す刀で首を切り裂き絶命させる。


「え?ガイさん?なに今の剣、人を斬った?人が死んだ?」


 カレンがいきなりの人の死に呆けてる、そうだそのまま呆けて動くなよ?

 周囲もいきなりの事態の変化についてこれず動きが止まっている。今のうちにあと4人は斬りたい、今斬ったやつの横をくぐり抜けて、後ろにいた二人の首をまとめて横薙ぎに斬りつける。あと2人!、刀を振って血糊を落とし次の獲物に駆けていく。よし順調だ……今はこいつらを斬ることだけを考えろ!

  後ろにいた4人の最後の1人も行動不能にした、これでカレンの方は安全だ。


 ここで件の手強そうな男が動き出す、疾風のような剣の抜きからの振り下ろし。こいつは後回しだ……動きを見せないように停止し鼻先2ミリで躱して男を通り過ぎる。

 男が驚愕の表情を見せるが知ったことか、置き土産に通り過ぎざまに一太刀入れて動きを止める。

 そのまま流れるように1人2人と切り捨てたとき、やっと最後の1人が動き出し俺の後ろから斬りつけてくる。俺は一歩前に進むことで間合いを取りその斬りつけを躱して、振り向きざまに大上段から振り降ろして斬り捨てる……


 残るは件の男1人のみとなった……


「ガイさん?なんですこれ……なんなんです?」


 カレンが未だに状況を飲み込めず俺に聞いてくる。


「俺も聞きてえな?てめぇが魔法剣士なのは分かったがなんだぁ今の動き……7人斬って息も乱してねぇ」


「お前に聞かせる事は何も無い……カレン部屋から出ていろ邪魔だ」


「そんなにつれないこと言うなよ。はは〜ん……どっかで見たことあるやつと思ってたんだ。魔法使いだと思いこんでたから結びつかなかった。先入観って怖いねぇ、英雄さまが間近に居るのに気付かねぇんだからよ」


「黙れ」


「なんだぁこの娘に知られたくないのか?」


「黙れと言った」


「いーじゃねーか、冥土の土産だ英雄と話させろよ。どうせ俺は死ぬんだろ?なぁ「ガーランド・イシュー」」


「え?「ガーランド・イシュー」?ガイさんが?」


「ハッ!ーランド・シューで「ガイ」かよダサいんだよ」


「嘘……うそよ」


「っ!カレンよせ!」


「嘘だーー!!」


 錯乱したカレンが男に斬りかかる「気」の動きが見えた。男がその斬りつけを躱しながらカレンを切り捨て、そのまま走り抜けて逃げようとする「気」の動きとともに……


 「居合」!駄目だこの位置関係ではカレンも斬ってしまう!チィ!間に合え……


 膝の靭帯が切れようが知ったことか!このタイミングだけは間に合わせろ!


「え?ガイさん?なぜここに、さっきまであっちにいたのに?」


「良かった間に合った……」


 カレンを抱きしめる格好で上段からのカレンの剣を止めて、同時に男の逆袈裟からの斬り上げに対する盾になる。双方の剣が止まった瞬間に振り向きざまの居合で男を両断しそのまま膝を付く……


「チッあそこから間に合うのかよ……バケモンめ。だが英雄を道連れに出来て光栄だねぇ」


 そう言い残して男は事切れた……これで安心だな。あ〜腸が溢れてる、痛みは感じないものなんだな……


「カレン……無事か?」


「今は私のことより戻ってガイさんの治療しないと!」


「無理だな……間に合わない……だが君を救え……たなら良かった……」


「ガイさん……ガーランド……」


「す……まんな……君を騙し……てた」


「なぜ私を庇ったんですか?」


 何を当たり前のことを聞いてくるんだこの子は、


「子供……を……助け……ない親……なんて居ない……」


「なら!なぜ母の前から居なくなったんですか!」


 それは話すと長くなる……


「す……まな……い」


「ガイさん?ガイ……!」


「父と……呼んで……くれ……る……のか……優……し……娘だ」


 さすがアンナの娘だ俺の娘だ……


「お父さん!お父さん!嫌だやっと会えたのに!」


「つよ……なく……いいから……」


「なに!?お父さん!?」


 最後だ……気合を入れろ!


「強くなんてならなくていい、ただ幸せになってくれそれだけが望みだ」


 もう思い残すことはない……


「………………」


「お父さん?お父さん!いや!いやーーー!!」







●カレン・イシュー Side ●



 小高い丘の上から今までいた街を見下ろす……


 ガイさんと出会った街、お父さんと出会った街。

 街を離れることを告げたとき、ハンスさんは寂しそうに語ってくれた。


「ガイ……ガーランドは優しすぎるやつだった……奪った命を気にしすぎるほどのね、だから英雄にはなれるけど、英雄でい続ける事が出来なかったんだよ……」


「ダンが逝ってガーランドも逝ったか……いい奴ばっかり先に逝きやがる」


「街を離れるか……まあガーランドの望みなら仕方ないか……君は将来有望だったんだがな。なら、これを持っていきなさい……ガーランドから迷宮で落とすのも忍びないと預かっていたものだ。君が持ってるべきだろう」


 父からの形見としてこのロケットだけを貰って帰る。母の写真が入っているこのロケットだけ……


 私はこれから父の最後の言葉の通り幸せになる。そしていつか自分の子供に語って聞かせよう。あなたのお祖父ちゃんは優しい英雄なんだよって。


 あの街で触れ合ったガイさんのお話として……






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