第2話 下剋上

 ———《下剋上》。


 実際に使うのはこれが初めてだが、一応スキルの効果は予め知っている。

 これを持っているのが俺でなければ、相当強力なスキルだっただろう。


「お、おお! めっちゃ身体に力が湧いて来る! こりゃすげえ、今なら何でも倒せそうな気がするんだが!」


《何したんだ!?》

《全身真っ赤やん!》

《界◯拳だ! これは間違いない!》

《ヤバい、界◯拳思い出したらそれにしか見えんのだが》

《それなww》

《因みにどんな効果なん?》


「聞いて驚け、俺の全ステータス10倍だ! そしてこれが俺の新たなステータスだ!」


 俺はポケットからステータスカードを取り出してドローンに映す。


—————————————

【名前】白星直斗

【種族】人間(雑魚乙)

【年齢】18

【Level】1

【体力】20↑

【魔力】20↑

【攻撃】20↑

【防御】20↑

【敏捷】20↑

【スキル】

《下剋上》《スキル強奪》《経験値半減》

—————————————


《お、おお……?》

《やっぱ界◯拳やないかい!》

《てか、白星が10倍になっても20やん》

《余裕でオークエリートの方が強い》

《オークエリートって1番低い敏捷が22だっけ?》

《YESYES。攻撃は40くらい》

《今度こそ終わったな》

《誰かー救助隊をー!》


「お前ら勝手に終わらせるなよ!?」


 俺は速攻で諦めムードへと移行したりリスナー達に思わずツッコむ。

 しかし、俺のツッコミを完全に無視され、更なる諦めムードが漂い始めたので、俺は一先ず目の前のオークエリートを倒すことにした。


「お前ら見とけよ、これが弱者の勝ち方だ!」


 俺はポケットから手で握れるサイズの丸いボールの様なモノを2つ取り出す。

 そしてそのボールの内1つを野球のピッチャーの様なフォームで思いっ切りオークエリートに投げた。


 ボールは170キロに迫る速度でオークエリートにぶち当たった。

 その瞬間———『カッ!』と閃光が洞窟内を照らし出し、至近距離で光を見たオークエリートが目を押さえながら悶える。


「ブモォォォォォ……!!」

「よしッ、うまく行った! はッ、お前の足りない脳みそじゃ閃光玉が来るなんて思いもしないもんな!」


 それに此処は洞窟内。

 相対的に、此処にいるモンスターの殆どが強烈な光……太陽の光が当たる空間を見る程度でも目を眩ます奴らばかりなのだ。

 一瞬で太陽の光の1.5倍の光度を持つ閃光玉を喰らって怯まない訳などいない。


《おおおお!!》

《こすい! 狡いけど凄い!》

《ほんとに弱者の戦い方で草》

《でも最近の配信って俺TUEEEEの配信者しか居ないからハラハラドキドキが感じれて非常に良き》

《分かる! どうせ直ぐ倒すって分かるもんな!》

《まぁ白星は常に死と隣り合わせだから臨場感はエグいよな》


「よしお前ら、しっかり見ててくれよ! お次は俺の必殺技だ! くらえ豚人間!」


 俺は持っていたもう1つのボールを未だ目を押さえながら悶えるオークエリートへと投げ付ける。

 目を眩ましたオークエリートにそのボールを避ける余裕などなく……しっかりと当たった。


 瞬間———ボールが一気に弾け飛ぶ。

 同時に中に入っていたまきびしと耳を破壊する程の爆発音が炸裂し、オークエリートの身体中を切り裂き鼓膜を破く。


《次は殺傷用爆音玉かよ!》

《いやほんとに狡い!ww》

《でもオモロいww》

《オークって今平衡感覚ないんじゃね?》

《確かに》

《斧も投げ捨てたしな》

《白星! 今がチャンスだ!》

《刺激が欲しい奴:【10,000円】頑張れ白星! ワイからの選別や!》

《初スパチャナイス!》

《いけぇえええ!!》


「おっしゃああああああ———ッ!!」


 俺は全速力で駆け出すと、落ちていた斧を拾い上げ……。


「重ッ!? ええい、こんなん遠心力で何とかしてやらぁ! くたばれクソ豚ッ!!」


 あまりの重さに肩が脱臼しそうになるが、ギリギリ踏みとどまり、ぐるぐる回りながら斧をタイミングよくスローイングした。

 すると奇跡的に斧はオークエリートの喉元に迫り———。


「———ブモッ!?」


 オークエリートの首を斬り飛ばした。

 同時に崩れ落ちる見上げる程の巨体。

 その横に頭がコロンと落ちた。


 ———静寂、そして———。


【———レベルが4上がりました】


「よっしゃああああああああ———ッ!! 雑魚の俺がレベル25のオークエリートを倒したぞおおおおおお!! 見たかお前ら! 今まで1回もモンスターと闘った事ない俺がボスを倒したぞ!!」


 俺は、歓喜の籠った勝利の雄叫びを高らかに上げた。

 同時に、いつの間にか10万人を超えるリスナーが一気にコメントを打つ。


《すげええええ!!》

《おおおおおおおおお!!》

《レベル1でオークエリート倒すとか凄すぎだろ!?》

《しかも初めステータスオール2だぞ!?》

《E級の俺の初期より低いのにマジですげえな!!》

《レオナch:【50,000円】おめでとう、新人君。私からの記念だ》

《おいこの配信、レオナ様も見てんのかよ!?》

《しかもあの誰にも感謝を言わず、来てもスパチャなんてしないレオナ様だよな!?》


「え、俺の配信レオナ様見てんの? やばっ、震えてきた……俺、レオナ様の大ファンなんだよ! レオナ様、そしてさっきくれてた刺激が欲しい奴さん、スパチャありがとうございます!!」


 因みにレオナ様とは、アメリカ人と日本人のハーフで、両国の言葉が話せる美女であり、勝ち気な笑みと炎魔法と斧による圧倒的な攻撃力が売りのS級ハンターである。

 彼女の真っ赤な赤髪に、誰もが虜になる美貌と抜群のスタイルも人気の1つだろう。

 まぁその代わり物凄く男勝りな性格で、滅多に人を褒めたりしない。


 俺が有頂天になっていると、再びコメント欄にレオナ様が姿を現す。


《レオナch:【10,000円】チャンネル登録したぞ。次の配信も楽しみにしている》

《マジかよ……》

《あ、あのレオナ様が……!?》

《まぁ本当の命懸けで戦った白星へのプレゼントみたいなもんだろ》

《良かったな白星》


「マジで嬉しいんだが! よし、それじゃあちょっと休憩してから次行くか!」


《次に行こうとする胆力エグい》

《怖いモノ知らずかよ》

《バケモンだな》

《アタオカだろ》

《いやサイコパスの間違いだろ》


 ……おい、人を何だと思ってんだ。


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