とんでもない秘密

@rabbit090

第1話

 あなたは、どこから来たの?

 不思議そうな顔をして、彼女はシレっとそう言った。

 ただ僕は解せない、いくら何でも不躾だ。

 なのに、彼女は、普段の彼女にはそう言った素振りは一切ない、いつだって冷静で、穏やかで、キレイには人だった。

 おかしくなったのはいつからだっけ、僕はいつもより従順に、そんなことばかりを考えていた。

 

 「三右衛門さんえもん。」

 ああ、体がびくりと緊張し始める。

 僕は、この名前が嫌いだ。大嫌いだ、本当に嫌いだ。

 昔から僕に好奇の目と、妙な関心をもたらす、この名前を付けた父のことも大嫌いだった。

 父は学者をしていた。

 最初は民間の研究施設に勤めていたらしいが、風土が合わない、とか言って、子どもと、(つまり僕と)妻がいるのに仕事を辞めた。

 母は、そんな父のことが嫌になって、出て行った、ならいいけれど死んでしまった。

 なんか、あの父と結婚するくらいだ。ちょっと弱いところがあって、そこが壊れてしまったのだという。

 まあ、でも、僕はあまり家族に対して状を抱いていないから、でも、父はずっと家にいる。そして僕も出ることはしない。

 だって、出てしまったらどうしようもないでしょ?

 僕はいつも、びくびくしている。

 また、あの父がいつ暴れ出すことやらと、様子を見ている。

 それで、さっきの話だけど、父がその後どうなったかって?

 父は、その研究施設を辞めて、在野として実験を重ねていた。

やはり、大学で専攻していた理化学の世界に足しうる関心は強く、諦められなかったらしい。

 でも、それならいいんだよ。

 でも、あいつが作り出してしまったのは、世界を滅ぼす道具だった。

 (まったく、いい年下大人が何やってんだよ!)

 と思っていたけれど、僕はそんな父の様子に恐怖を覚えていたし、だからこそ僕も、理解しなくてはという思いがあって、理化学の世界に転がり込んだ。

 が、見つけたのは、絶望的な事実だった。

 その暗号のような父の研究成果を、(学会に所属していないし、まとめる必要がない、だからとても乱雑だった)知識をつけてから解読、(ホントにそう)した、んだけど、でもさ。

 ヤバい、こいつ。

 それしかなかった。

 しかも、父の人間性は突き抜けてヤバい。

 社会コミュニケーションに何ら問題がない、(だからこそ大きな研究所に勤められていた)なのに、考えていることがまったく社会性などを無視した、つうか冒涜しているだろう、という程のおぞましさだった。

 

 だから、

 だから僕はこのモンスターを何とかしなくては、と思って、あがいたけど、無理だ。

 無理なんだ。

 「藍。」

 僕は、だから彼女の名前を呼んだ。あい、だなんて読み方、今どき珍しくて、僕はそんな彼女の、ぶっ飛んで父と似ているところが好きになってしまった。(馬鹿!)

 僕はもう、何が正しいのか分からなくなってしまった。

 けど、もう手遅れだと分かっているから、言ったんだ。

 「君、父の研究手伝ってるよね。」

 「…え?」

 彼女は目を見開いた、だけど僕は知っている。

 そして、もう世界はあとちょっとでなくなることも、知っている。

 壊すことなど簡単だったのだ。

 僕たち人類は、すでにその力を持っている。

 とても、恐ろしいことだ。

 しかも、世界の終わりというのは、バーンとか、ドーンとか、そんなんじゃなくて、シュンッって感じ。

 消える、んだ。

 

 ああ、もういいや。

 最後に、藍を見たいと思ったけれど、それもなんか違った。

 僕はもう目を閉じて、眠ろうとする。

 

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