ある日、お節介な吸血鬼に襲われました

フジワラ

第1話 ある日の夜

子供の頃から心霊だとかUMAだとか宇宙人だとか……そういったオカルト系が好きだった。

オカルト系番組は出来る限りリアタイするし録画を何度も見返す。オカルト系の本も今まで何冊読んだか分からない。

……その代償として友達は減ったが。人はどうやら成長していくごとに、そういったジャンルには興味を無くしてしまうらしい。


「ナギ、どうだった?テスト」


「普通」


「とか言って毎回上位に入り込むよね。ナギは」


そんな中で小学生……いや、幼稚園の頃からずっと仲良くしている人間はいる。今、俺のことを「ナギ」と渾名で呼んできた少女。朝日奈楓あさひなかえでだ。ちなみにこの渾名は彼女しか使ってない。


「いや……普通以外に言うことないんだよ。楓は?」


「私?うーん……普通?」


「俺と言ってること変わらんからな」


俺も楓も突出して成績が良いわけじゃないし悪いわけでもない。平均よりかは上だが一桁順位に入れるほどの点数は残してない。

得意苦手に差があるのでお互い教え合ってるが、そのように一緒に勉強して毎度毎度似たような成績を残すのは中学時代から変わってないわけだ。

とはいえ俺達も2年生。高校生活も残り1年半程度となっており嫌でも進学だとかを考えなければならない時期になってきている。

ここらで気持ちを入れ替えて勉学に励むというのも……


「そろそろ本気で上位目指してみる?もちろん二人で」


言われてしまった。まぁ同じことは考えてたし合わせておこう。


「ワンツーフィニッシュ決めるか」


「お、かなり目標高く設定したね。ま、少なくとも一位は無理だと思うけど」


「まぁ言ってはみたけど……宵宮よいみやに勝てる気はしないよなぁ」


ちらりと窓際の席に目をやる。何人かの友人に囲まれた……恐らくテストの点数の話をしているであろう、真紅の瞳が特徴的な宵宮憐よいみやれん。彼女が学年一位を独占しているのは俺達の学年では有名な話だ。

思い切って宵宮に勝つという目標を立てようかと思ったが人生を何度も繰り返さねばならないので普通に諦める。

勉強もスポーツも超優秀。まるで漫画の世界のような完璧超人。それでいて容姿端麗と来れば嫉妬の一つや二つ寄せられてもおかしくないが、彼女の人柄が良すぎて、そんな話も聞かない。

白旗は一本で足りるのだろうか。とにかく勝てる気がしないので宵宮を意識するのも時間の無駄と言えるかもしれない。自分のことに集中した方が遥かに有意義と言える。


「……ま、期末は頑張ってみるよ。楓も一緒にな」


「私とナギが力を合わせれば最強!ってことだね?」


「うん、まあ、それでいいや」


♦♦♦♦♦♦


……振り返ると、その夜はなぜか散歩をしたくなった記憶がある。普段そんなことを一度たりとも考えたことがないのに、それを不思議に思わなかった。


どこに向かおうかとか、そんなことを一切考えずに歩き回っていた。いや、でも確かにどこかに導かれる感覚があった。


歩き回ってる内に公園に辿り着いた。俺はその公園の……古びたブランコに座った。何年も前、ちょうど俺達が小学校に入学する前からあるブランコだ。古びているのも仕方がない。


何を待つわけでもなく何分……何十分かそこに座っていた。動かないのか……動けなかったのか。今考えても分からない。だって何も考えていなかったから。


どのくらい時間が経っていたのか。ふと前を向いた時、誰かが立っていたのが見えた。いつから居たのか気付かなかった。気配すら感じなかった。


恐怖を感じた。ただ同時に、この誰かを待っていた気もした。……ありえないだろう。ただ確かに、その感覚に陥ったのを覚えている。まるで、長年会えていなかった昔の幼馴染と再会したような感覚だ。


それでも恐怖が勝った。俺は急いで逃げた。あの時俺は家の方向に向かっていただろうか。……いいや、今それを考えても意味が無い。どちらにせよ結果は変わってなかった気がする。


追ってこないことに安堵した俺は深呼吸をした。体力無いなと思った記憶がある。なぜ散歩をしたくなったのかも、なぜ公園に行ってブランコに長時間座っていたのかも、目の前にいた「誰か」が結局誰だったのか。


まあ考える必要もない。俺はそう思って家の方へと向かった。どこに逃げたのかも分からないので、そっちが正しかったのかも分からなかったが。


ただ、その時だ。これだけはハッキリ覚えている。俺は動けなくなった。金縛りにあったかのように。何が何だか分からない。早く家に帰りたい。……ふと、声が聞こえたんだ。


「……なぜ、逃げるのですか?」


そりゃ逃げるだろと思った。100人中100人に聞いても不審者と答えるだろう。……日を跨ごうかという時間にブランコに座り続ける俺も同類かもしれない。


いや違う。そんなことは今どうでもいい。今の声を俺は知っている。声だけじゃなく名前も顔もだ。真紅の瞳を持った少女の名前を俺は……呼ぼうとも声が出なかった。


一歩ずつ近付いてくる。足音も聞こえず。もしかしたら歩いてなかったのかもしれない。


次の瞬間、ふっと意識が抜け落ちる感覚があったのを覚えている。目を閉じてしまう瞬間、俺は……俺は確かに、彼女の目を……顔を……そして、異形の翼を見たんだ。


……もし、この経験を書き残すのなら。日記でも小説でも何でもいい。どちらにせよ冒頭はどれでも同じになるのだから。

著者:神代渚かみしろなぎさ ────冒頭は、こう綴ろう。


「吸血鬼に襲われたことはあるだろうか」と。

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