第44話 後輩の家にお邪魔する姉
〜姉視点〜
土曜日のお昼過ぎ、私、美優、ちーちゃんの三人は萌ちゃんのお家にお邪魔しようとしていた。予定していた勉強会兼お泊り会のためだ。
「お邪魔しま〜す。」
「お邪魔します。」
「お邪魔するわ。」
「どうぞどうぞ!あまり広くはありませんが、自分のお家のようにくつろいじゃってください!」
萌ちゃんはそこそこ大きいマンションに住んでいた。あまり広くないとは言っていたが、学生の一人暮らしにしては十分な広さだと思う。
リビングに通された私たちは、いつもの席順でローテーブルにつく。当然のように横並びでおかれていた二枚の座布団にはちょっと笑ってしまった。役得だからいいんだけどさ。
「そうだこれ、私たちから。」
事前に用意していた手土産を萌ちゃんに渡す。中身はちょっとしたお菓子なので、そんなに重くもないはずだ。
「あっ、アタシからも。」
ちーちゃんも手土産を渡している。
「わぁ!ありがとうございます!!飲み物と一緒に用意してきますね!紅茶で大丈夫ですか?」
三人ともうなずく。それを確認した萌ちゃんが紅茶とお菓子を用意しに行った。今のうちに勉強の用意をしておく。
「それで、アンタ試験は何教科あるの?」
「あ~、ざっと5教科ほど…。」
他にもいくつか講義を受けているが、レポートや普段のリアクションペーパーなんかで成績がつく。勉強は苦手だけど、なぜかレポート書くのは得意なんだよね。事故の影響で1年の後期が全部レポートになったから、私的にはすっごい楽だった。
「なるほどね。そのうちアタシたちの誰かとかぶってるのは?」
「4教科だね。美優が2教科、ちーちゃんと萌ちゃんが1教科ずつ。あとの一つは完全暗記だし、一夜漬けすればどうにかなると思う。」
「……一夜漬けのことは置いておくとして、今日一日で全部やるのは無理でしょうし、苦手なところや分からないところだけに絞って進めていくわよ。」
「かたじけない…。それで、ひじょ~に言いにくいんだけど、苦手なところや分からないところが分からないっていう…。てへっ。」
ほんとに分からないときって、なにが分からないのか分からないよね。分からないところが分からないから何を聞けばいいか分からないっていう。……「分からない」がゲシュタルト崩壊しそう。
「てへっじゃないのよ。あんたは講義中何やってんのよ…。」
「いや~、ちゃんと聞いてはいるんだよ?でも講義に追いつけなかったり、単純に忘れてたり…。」
あと最近は隣に座る美優の横顔を見つめちゃってたり。真剣に講義を受けている姿がカッコいいのなんの。たまに見つめられていることに気づいて、こちらにニコッと微笑んでくれるのめっちゃ好き。惚れる。いや惚れてたわ。まぁそのあとたしなめられるんだが。
「お姉さまはやればできる子なので大丈夫ですよ。単位を落とさないように私が全力でお助けしますので。」
「あ~、美優の優しさが身に染みる…。流石私の妹~。」
困ったときに助けてくれる妹がいてほんとによかった。
「美優、あまりこの子を甘やかしちゃダメよ。いつかアンタに頼りっきりになっちゃうわよ?」
「そうなると嬉しいですね。」
「そうだった、アンタ意外とそういうところがあるのよね…。……はぁ…まぁいいわ。それじゃあ彼女が戻ってきたら始めましょう。」
「いや~、ほんとに助かるよ。」
話が一区切りついたところで、萌ちゃんが丁度戻ってきた。
「戻りました!何の話をしていたんですか?」
「この子が今日やることの確認をしていたわ。結構大変そうだから覚悟していなさい。」
「大丈夫です!うちに任せてください!お姉さんが単位を落とさないように頑張りますね!!」
机に飲み物とお菓子を置いた萌ちゃんがニコニコしながら体の前で両手をグッと握る。
「…常々思ってるんだけど、この子ってすごく眩しいわよね。」
「すっごい分かる。」
「私も同意します。そこが萌の良いところですしね。」
私たちの言葉に萌ちゃんが不思議そうに首をかしげている。自覚なしだからすごいよね。これが本物の陽キャか…。私とは大違いだ…。
そんなこんなで勉強会が始まった。初めは美優と勉強を進めていく。
「……ん~?ねぇ美優、これってどういうこと?」
「ああ、それはですね、―――ということです。講義では強調されていたので、ほぼ確実に試験に出題されると思います。」
「お~、なるほど。ありがとう分かりやすかった。」
美優の説明は簡潔で分かりやすく、私が理解できなかったとしても理解できるまで説明してくれる。いい妹を持ったものだ。
「どういたしまして。…はいお姉さま、あ~ん。」
「んっ、あ~ん。…ふむふむ、これおいしいね。美優も食べてみて。はい、あ~ん。」
「ありがとうございます。はむ。…確かにおいしいですね。」
「でしょ?紅茶とよく合うよね。」
勉強を教えてもらいながら適度にお菓子をつまむ。紅茶とお菓子がよく合うね。
「………これで付き合ってないって、誰が信じるのよ…。」
「あはは…。ほんと不思議ですよね…。」
ちーちゃんと萌ちゃんがなにか言っていたが、私は勉強に集中していて気づかなかった。
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