第35話 体を拭かれる姉

~姉視点~


「んっ…。」


 目が覚めた。おでこに違和感を感じたので手を当てると、冷却シートが張られていた。


「おはようございます。調子はいかがですか?」


 横にいた美優が体を起こすのを手伝ってくれる。まだ体はだるいが、それでも大分楽になった。


「おはよ。だいぶ楽になったよ。ありがとね。…ところで美優、大学は?」


 今はちょうど、講義の時間だと思うのだが…。


「今日は休みました。あっ、でもお姉さまのせいではないので、自分を悪く思わないでください。これは私の中の優先順位の結果なので。」


「…そっか。それでも謝るよ。ごめんね。…でも…その、ありがとう。嬉しい。」


 私の方が優先度高いと言われて嬉しくない人なんていないだろう。でも、ちょっと気恥ずかしい。


「ふふっ、どういたしまして。…スポーツドリンクや栄養ドリンク、プリンなどを買ってきたので取りに行きますね。」


「助かるよ。ついでに体を拭けるものがほしいな。」


 実は今、寝汗で服が体に張り付いていてとっても気持ち悪い。拭いたり着替えたりしないと体が冷えちゃうと思う。


「分かりました。少々お待ちください。」


 美優が買ってきたものを取りに行ったので、今のうちに熱を測っておく。幸いなことに37.4℃まで下がっていた。美優の看病のお陰だろう。


「戻りました。」


「おかえり。熱37.4まで下がってたよ。」


「それは良かったです。」


「うん。………ふぅ。」


 熱で弱気になっていたからだろうか、つい美優に甘えたくなってしまった。


「んんっ、あ、あーなんだか汗かいちゃったなー。服が体に張り付いてやだなー。」


 べたべたするなー。早く着替えたいなー。


「タオルをお持ちしました。これでお体を拭い―――」


 美優がタオルを渡そうとしてくるのを遮る。


「あ、あー熱で体がだるいなー。動くのもつらいなー。」チラッ


「………。」


 美優は無言でこちらを見つめていた。


「か、体うごかせないなー。自分じゃ拭けないかもなー。」チラッ


「………。」


「どこかに体を拭いてくれる妹でもいないかなー。」チラチラッ


 だんだん恥ずかしくなってきた。なにしてるんだろ私。


「……お姉さま、お体を動かすのは辛いでしょうし、私が拭きましょうか?」


「…まぁ?美優がどうしてもやりたいって言うならいいよ。私は自分でやる気だったけどね?」


 美優がどうしてもやりたいって言うのなら、お姉ちゃんとしては頷くしかない。別に自分でもできるけどね?まぁ美優がどうしてもって言うなら仕方ないよね??


「はい、どうしても私がやりたいです。……では、服を脱がせますね。」


「えっ…えっ?ふ、服ぐらい自分で脱げるよ!?」


 服の裾に手を当てた美優の腕をつかんで止めようとする。


「でもお体を動かすのも辛いですよね?」


「うっ…。それは…そうだけど…。」


「では手を離してください。」


「………。」


 私はしぶしぶと手を離す。


「ありがとうございます。脱がせますね。…はい手を上げてください。」


 ゆっくりと服がまくられていき、上半身は下着だけになる。自分の顔が赤くなっているのが分かる。熱上がっちゃうかも。


「下着はどうしますか?」


「うっ…正直着替えたい…。」


「分かりました。では脱がせますね。」


「うん…あんまり見ないでよ…?」


 ゆっくりと下着も外される。めちゃめちゃ恥ずかしい。


「お綺麗ですよ?」


「う、うるさい!!」


 ちょっと嬉しいなんて思ってない。思ってないったら思ってない。


 少しだけひんやりと湿ったタオルが肌に当てられる。


「んっ…。」


「力加減は大丈夫ですか?」


「うん…大丈夫。」


 ゆっくりと体を拭かれる。恥ずかしさからか、肌が敏感になってる気がする。


「一旦拭き終わりましたが、どこかまだ足りないところはありますか?」


「ん~ん、大丈夫。着替えさせて。」


「分かりました。」


 新しい服に着替えさせてもらう。ふぅ、さっぱりした。


「ありがとう、さっぱりしたよ。」


「それは良かったです。次は下ですね。」


「やっぱりそうだよね…。恥ずかしさが振り切れそうなんだけど…。」


 別に嫌ではないけど、恥ずかしさがやばい。


「でも気持ち悪いですよね?」


「うん…。」


「では脱がせますね。」


「分かった…。」


 そのあとは下半身も同じようにしてもらった。


「もうお嫁にいけない…。」


 恥ずかしすぎて両手で顔を覆う。この年になって初めて見られるのが妹とは…。


「大丈夫ですよ。私がもらうので。」


 心臓がドキッと跳ねる。


「………な、なにばかなこと言ってんの!」


「…冗談です。」


 冗談もほどほどにしてほしい。


「今日はこのまま安静にしていてください。何かあったら呼んでくだされば、いつでも駆けつけます。」


「ありがとう。とりあえず休ませてもらうね。」


「おやすみなさい。」


「うん、おやすみ。」


 美優が部屋を出ていく。


「………ふぅ。うぁぁぁぁあ…見られたぁ…。めっちゃ恥ずかしぃ…。なんであんなこと頼んじゃったんだぁ…。」


 ベッドの上で悶える。全身はさっぱりしたが、死ぬほど恥ずかしかった。


「熱があるとはいえ、甘えるべきじゃなかったぁ…。」


 そもそも妹に甘えるお姉ちゃんって体裁悪くない…?


「はぁ…まぁでも美優がいてくれて本当に良かった…。」


 私一人じゃ心細かっただろう。そして今もリビングの床で倒れてるんじゃないかなって思う。将来風邪ひいたときに独り身じゃ死んじゃいそう…。


「私がもらう…かぁ。どんな生活になるんだろ……いやいやいや。」


 熱で頭がおかしくなっているのかもしれない。いつもは考えないようにしてることを考えてしまった。


「寝よ…。」


 目を閉じる。幸い、すぐに意識が遠のいた。




 私はだれかと幸せな結婚生活を送る夢を見た。

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