第32話 妹と映画鑑賞をする姉

〜姉視点〜


 お昼ご飯を食べ終わり、美優と並んでお皿洗いをする。まぁお皿洗いとは言っても、私はお皿拭き担当だが。でもこうして二人でキッチンに並んでいると、なんだか新婚夫婦みたいだななんて思う。


 ………いやいやいや何考えてるんだ私。何が新婚夫婦だバカじゃないのか。相手は妹だぞ。


 一人で勝手に悶えていると、美優から話しかけられた。


「お姉さま、後で一緒に映画を見ませんか?」


「んぇ?映画?いいけど、今何か面白そうなやつあったっけ?」


 最近公開してる映画を思い浮かべてみたが、いまいちしっくりくるものがなかった。


「あっいえ、映画館に行くわけではありません。伝え方が悪かったですね。Netyurixの面白そうな映画をおすすめされたので、一緒に見ませんかっていうお誘いです。」


 ネットユリックス…映画とかが見放題のやつか。………そんな名前だったっけ?まぁいいや。


「ああ、サブスクね。いいよ、どんな映画?」


「学園ものの恋愛映画らしいです。同好会の先輩方におすすめされまして。そのサイトでもとても評判が良かったので、是非お姉さまと一緒に見たいなと。」


 恋愛映画か。私も映画のヒロインみたいに恋愛をしてみたいものだ。


「なるほどね。恋愛映画たまにしか見ないし、新鮮でいいかも。じゃあこれが終わったらそこのテレビで見よ。どうせならカーテン閉めたり電気消したりして、映画に集中できるようにしようよ。」


 そんでもって、ジュースとか軽いお菓子も用意しよう。お昼ご飯食べたばかりだけど、お菓子は別腹だ。


「いいですね。私はブランケットを用意しますね。楽しみです。」


「うんうん、私も楽しみ。」


 よ~し、そうと決まればさっさとお皿洗い…お皿拭きを終わらせちゃおう。



―――――


 カーテンを閉めて部屋の電気を消す。私達はソファに腰掛け、一緒に美優が用意してくれたブランケットにくるまる。肩とか太ももがくっ付くくらい密着度が高い。それに、美優の頭が私の肩にもたれかかっている。……リラックスしてくれているのはいいけど、美優の良い匂いとか体温が直に感じ取れてちょっとドキドキする。そんな私達の前には飲み物とちょっとしたお菓子が用意されたローテーブルがある。


「お姉さま、用意はいいですか?」


「うん、ばっちり。いつでもいいよ。」


「分かりました。では始めますね。」


 レッツ・ウォッチパーティだ!!




 …一時間半の映画が終わった。


 この映画は女性同士の恋愛を描いた学園ものだった。天然でどこか抜けてるA子と、クールで近寄りがたい印象を持つ転校生のB子が出会うところから物語が始まる。ある事件をきっかけにB子がA子のことを意識し、アピールを始める。しかし、A子はなかなかに鈍感でそれに気づかず、すれ違うことが多々あった。それでも紆余曲折の果てに無事に二人は結ばれ、ハッピーエンドで物語が終わった。


「うえぇぇぇぇん。二人がくっついてよかったよぉ…。」


 年甲斐もなく、美優に抱き着きながら大泣きしているのは私だ。それぐらい感動した。


「そうですね。一時はどうなるかとひやひやしましたが、無事に恋人になれて良かったですね。」


 美優が私の頭を撫でてくれる。落ち着く。そんな美優も若干涙ぐんでいる。


「ほんとほんと。最後はまさかA子ちゃんからちゅ~するなんて想像できなかったよ。B子ちゃんが報われて良かったねぇ。」


「本当ですよ。B子さんに感情移入していただけに、思わずほろりとしてしまいました。」


「私はA子ちゃんの視点で物語を見てたから、B子ちゃんのアピールに終始ドキドキしちゃった。わぁこんなこと言われたら誰だって好きになっちゃうでしょとか思いながらさ。」


 頬に手を添えられて、愛しのA子なんて言われたら誰だって「あっ好き♡」ってなるでしょ普通。それに、あなたのために一生尽くすとか言われたら、私が幸せにするんだって義務感に駆られるでしょ。


「なかなか好きって気持ちが伝わらないと思いきや、実は気づいていたけど女性同士ってことでなかなか前に踏み出せなかったというのには衝撃を受けました。」


「いやぁ女優さんの演技も凄かったよねぇ。さも気づいてませんよって感じで演技してるんだもん。あのどんでん返しにはびっくりだったね。」


 A子ちゃんは天然だし、B子ちゃんのアピールに気づいてないって完全に思わされてたからね。ほんとに驚いた。


 そんなこんなで鑑賞後の語り合いが盛り上がる。


「―――いやでもまさか中盤にB子ちゃんが言った『私は額へのキスでは満足出来ません。』ってセリフが最後の最後に回収されるとはね。そもそもあのセリフを付き合う前に言うのも凄いけどね。あの関係は…まるで………そう…まるで……わた……。」


 ………………。


「……?お姉さまどうされましたか?」


 突然黙った私の顔を美優が心配そうな顔で覗き込んできた。私は美優から顔を逸らすようにして、喉から出てきそうになった言葉を飲み込む。


「ん!?あっいや、なんでもないなんでもない!!そ、それより、あの先輩が登場したシーンの―――」




 私は頭に浮かんだ考えに気づかないフリをしながら他の話を振った。

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