第5話 めざめた姉

~姉視点~


 知らない天井だ…。


 寝起きのようにぼーっとした頭で思いついたのは、人生で一度くらい言ってみたかったセリフ。ごめん嘘。目が覚めたら知らない場所ってめっちゃ怖くね?実際今めっちゃ怖い。


 ってか本当にここ何処だ。今まで何してたっけ。あと何故か左腕と右足がめっちゃ痛いし動かせない。それだけじゃない。全身が痛い。えっこわ。マジやばくね。



 少しずつ焦りが募る中、視界の端に機械があることに気づく。それは心電図モニターだった。ってことは病院か?なんで私は病院にいるんだ?


 確か美優とお出か…け…………そうだ、思い出した。美優…美優は無事か!?!?!?先ほどよりも強い焦燥感に襲われながら、動く右手でナースコールボタンを押す。


 やってきた医者達に私は掠れてろれつが回らない口で美優の無事を確かめる。


「みゆは…ぶじですか?」


「妹さんですね。あなたのお陰で特に大きな怪我はありませんでした。それよりも、今は自分の身体の心配をしてください。」


「そっか…よかった…。」


 私は大切な妹を守ることができたらしい。本当に良かった。


 その後は色々とドタバタ騒ぎで大変だった。仕事中の父さんと母さんも飛んできた。申し訳ないやら嬉しいやらで何とも言えない気持ちになる。愛情があったけぇあったけぇ。そして大切なわが妹も来てくれた。姿を見た瞬間泣いてしまって少々恥ずかしかった。


 どうやら私は1週間と数日の間目を覚まさなかったらしい。わぁ~びっくり~。動かせない左腕と右足は骨折していた。そりゃ痛いわけだ。この後は治療とリハビリが待っている。


―――――


 そんなわけで特にやることもなく、毎日ぼーっとして過ごしている。日記は再開したが、他にやることがない。罪悪感がすごい。このままだと確実にダメ人間になる。というかそろそろ飽きた。だらけるのは好きだが、こうも毎日続くと流石に他のことがやりたくなってくる。


 ってことで医者に伝えてみたら車いすの貸し出しを許可された。人に押してもらうならそこまで外に出っぱなしになるわけでもないので許可を得られたのだろう。そして、なんと!なんと!!美優が車いすを押してくれることになった。美優と触れ合える時間が増えるね!!!


 …ここ数日、というか目が覚めてからずっとなんだけど、美優の顔が暗かったのがとても気になっている。なにか悩み事でもあるのだろうか。これを機になにか話してくれれば良いんだけど、いかんせんなんて聞けばいいか分からない。そして、もし話してくれたとして、力になれるかも分からない。プライベートに関わることかもしれないし、聞きだすのを躊躇してしまう。どうしようかなぁ…。


 とか思っていたら美優の方から話しかけてきた。なんでも、どうして私を助けたのかだって。


 ………そんなことでずっと悩んでたの???まじ???そんなのお姉ちゃんだからに決まってるじゃん。何を言い出すのかと思いきやそんなことだったとは。正直、「私好きな人が出来たんです。」とか「私この家から出ていきます。」とか言われるのかと思ってひやひやしてたんだけど、(美優には悪いが)あまりにもくだらない悩みで拍子抜けしてしまった。


 美優が俯いている。本当にどうしちゃったんだろうこの子は。


「……すみません…今日はちょっと帰ります。」


「えっ、あっうん。分かった。気を付けてね~。」


 やべっ、しょうもない悩みだって考えてたのがバレたか?私はいつになったら美優の好感度を上げられるんだ????


 とか思っていた翌日。


「おはようございます、お姉さま。お体の調子は如何ですか?」


「うおぇ!?お、おはよう…。」


 そこにはニコニコ笑顔がまぶしい美少女が立っていた。


「ふふっ、どうされましたか?その綺麗なお顔で見つめられたら照れてしまいます。」


 いや、だれぇ…。アンニュイな雰囲気でツンツンした美優はどこいった??????


「み、みゆ…なんだよね?」


「ええ、そうですよ。お姉さまの妹である美優です。」


 いつもより近くまで来た美優。ってかナチュラルに手を重ねられた。なに!?なに!?どうしちゃったの!?!?!?


「今までひどい態度を取ってしまい、申し訳ありません。」


 そう言って俯く美優。相変わらず手は重ねられている。色々と驚きすぎて口をポカンと開くことしか出来なかった。


「でもようやく分かったんです。お姉さまが本心から私のことを考えてくれていると。」


 頬に手が添えられる。ひんやりとした手の冷たさを感じる。


「そして私も自分の存在意義に気づくことができました。これからもよろしくお願いしますね。愛しのお姉さま。」




 なんか妹の距離近くね?

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