異世界神妖奇譚~超美形男子パーティーと思ってたら全員女の子で、知った途端めちゃくちゃアピールしてくるんだが!?~
龍威ユウ
第0話
それはまるで、上質の
散りばめる数多の星の輝きは、地上に現存するどの宝石よりもずっときれいで、ならば一際その存在を主張する金色の満月はとても美しい。
氷のように冷たくも神々しい月明かりは、地上をほんのりと優しく照らす。
ここに、その月の恩恵を受けた四人の旅人がいた。
彼らは同じ目的としていて、苦楽を共にする仲間である。
そんな彼らが、偶然にもそれを発見できたのは幸運と呼ぶ他あるまい。
「――、こんなところに温泉があるなんて」
「ありがたいですね……はぁ、生き返る」
「……眠い」
鬱蒼とした森の中を、ほかほかとした白い湯気が静かに夜空へと昇っては消えていく。
自然にできた温泉だ。幸いにも周囲に怪異の姿はなく。彼らは結果として一時の安らぎを手にすることができたのであった。
風呂という文明は、アシビトらにとっては欠かせられない存在である。
これは決して誇張でもなんでもなく、事実アシノクニに住まう者ならば風呂好きが圧倒的に多い。
旅の途中で入浴をすることは極めて困難である。
町に着けばそれも可能だろうが、それまでの道中ではせいぜいが水浴びぐらいが関の山だ。
だからこそ、偶然にも温泉を発見できた彼らはとても幸運である、とこういっても過言ではない。
肉体に蓄積した疲労を和らげるだけでなく、汚れや臭いを落とすことも重要だ。
「――、それにしても……アオイさんもいっしょに入ればよかったのに」
「確かに。あの人は少しばかり働きすぎと言うか……我々に対して気を遣っている節がありますね」
「……正体がバレたのかも」
薄紫色の髪が印象的な一人が、うつらうつらと船を漕ぐ傍らでそうもそりと呟いた。
その一言に仲間の一人が反応する。頭上にてぽっかりと浮かぶ満月のような、しっとりと濡れが金色の髪をかき上げながら口火を切る。
「それだったら、尚更一緒に入ればよかったじゃない」
「そうですぇ……我々は気にしないというのに」
海のように青いショートボブがよく似合う仲間がうんうんと首肯した。
その時、不意に彼らの背後の茂みにて動きがあった。
がさり、がさり――草木が揺れるその音にさっきまでの和気藹々とした雰囲気から一変して、彼らは各々近くに置いた武器を手に取る。
森の中であるのだから野生の獣がいてもなんらおかしくはなく、しかし油断は一寸たりともできない。
ここは安全に守られた町中ではない。恐ろしい敵が強襲してもなんらおかしくない状況下に、三人に表情はひどく険しい。
程なくして、三人の口から安堵の息がホッともれた。
襲撃者の正体は、なんということはない。どこにでもいるノウサギだった。
ノウサギはその円らな瞳で三人を見やるや否や、きょとんとかわいらしく小首をひねり鼻をひくりと動かす。
再び穏やかな空気へと戻った温泉にて、一人がもそりと呟いた。
「……次の町までにいい食材が手に入りそうね」
「そうですね。まだ貯えがあるといっても、いつ何時どのような不足な事態が起きるかわかりませんですし……」
「……おいしそう」
じゅるり、と涎の滴るその音に野うさぎもどうやら察したらしい。
びくりと身体を振るわせるや否や、くるりと反転して一目散に三人の前から逃走を図った。
「逃がさない!」
金色のロングヘアをふわりとなびかせて、野うさぎの前に立ちはだかる。
そのまま素早く首根っこを押さえると、高らかに月夜へと掲げた。
「討ち取ったり! なんてね」
「相変わらずの機敏さ、お見事ですスバルさん」
「スバルやるぅ……」
「ふふんっ、まぁざっとこんなところ――」
スバルと呼ばれたその者の身体がぴたりと止まった。
その視線の先、月夜によって照らされたそれは一言で表すならば刀のように美しかった。
凛とした面立ちに加え、ごうごうと燃え盛る烈火を彷彿とする色鮮やかな朱色のポニーテールと、瞳に宿る赤々と輝きはさながら
その人物もまた、三人が口々にしていたもう一人の仲間であって、しかし互いを見やる
驚愕と困惑――二つの
「ア、アオイ……その、恰好……は?」
「ス、スバルさんこそ……え?」
「こ、これはつまり……どういうことなのでしょう」
「……あんびり~ばぼ~」
「スバルさん、それにカエデさんにカオルさんまで……こ、これはいったい」
激しく狼狽する四人には、唯一大きな相違点があった。
片やアオイと呼ばれた
そこより覗かせる鍛え抜かれた肉体は、端正な面立ちに相応しい。
所々に視える大なり小なりの痛々しい傷跡は、彼がこれまでにどのような道を辿ってきたかを物語らせる。
片やスバル、カエデ、カオル……この三人もまた、大なり小なりの
胸と一言にいってもそれは筋肉質ではなく脂肪の塊である。
特にスバルのそれは大変ふくよかで、触れればさぞ柔らかな感触を味わえることだろう。
「み、皆さんは――」
「ア、アオイって――」
「――、女だったんですか!?」
「――、男だったの!?」
きれいに重なった二人の声が、夜空へと昇り静かに消えていった。
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