花の金曜日は黄昏の塔で

古海 拓人

    花の金曜日は黄昏の塔へ

“ザー、ザーザ”

降りしきる窓の外の雨を見ながら文子はこう呟く。「今日は金曜日か…」

時刻は午後三時、終業まであと二時間弱、彼女が働いているのは町の小さな広告代理店で働いているのは文子と同僚二人だが、一人は支店長だ。

「悦子、書類は書けた?」

終わるよと言って、彼女は書類の最終チェックをして、認印を押した。

「二人共お疲れ様。コーヒーやカフェラテが入ったよ」

友子が

「わあ、ありがとう」

「いただきます」

キャラメル色のロングヘアーをなびかせてブラックコーヒーを飲むのは文子はエレガントな服装を着こなす美人だ。

カフェラテを美味しく飲む金色のロングヘアーと色白の肌、黒く美しい瞳の彼女は悦子、オフィスの若き美人社長だ。

差し入れの飲み物を持ってきてくれたのは友子、チョコレート色のロングヘアーをなびかせてピンクのヘアーバンドで軽く留めている。

室内だが雨のせいで、少し寒さを感じていたのか飲み物が身体を温めてくれた。

「今日もあと少しだね」

「うん、今月の納期もなんとか間に合いそうだね」

「頑張ったかいがあったね」

「みんなで頑張ったから…無事にやり遂げたんだよ」

文子、悦子、友子は三人でこの小さなオフィスを回している。郊外の開けたニュータウンの住宅地にガラス張りの日当たりの良い一軒家を改築しているので仕事はしやすい。

すると、そこに…

「悦子、文ちゃん、友ちゃん、お疲れ様」

一人の背の高い男性が入ってきた。

「マサくん」

「正信さん」

悦子の彼氏フィアンセの正信が入ってきた。オフィスから歩いて五分の所に小さいながらも町では人気の美容室を営む若きスタイリストだ。

「お店はどうしたの?勝手に空けて大丈夫なの?」

「今日の予約はご贔屓の岡本さんで終わりだよ」

「岡本さんって」

「うそ、町の有名な?」

文子と友子はその名を聞いて驚きを隠せなかった。岡本さんとは、この先にあるワンランク上の裕福な家族が住む高級住宅街に豪邸を構える指折りのセレブだ。余談だが、資産だけでこのオフィスや正信の美容室、四人の住んでいるアパートをまとめて買えるぐらいある。

「それはそうと、今夜、三人とも時間ある?ヒサとタクも仕事が早く終わったから…ここに行かないか?」

正信が一枚のチラシを見せた。悦子と文子、友子は声を上げて感激し、叫んだ。

「トワイライトビル」

それは町で一番人気のショッピングやグルメ、さらには温泉やプールも楽しめる複合施設ビルのチラシだった。

「文子に友子もそれぞれの彼氏を呼んで、今夜は黄昏の塔を楽しまないか?」

友子と文子は満面の笑みを浮かべて、「OK」と叫んだ。

早速、文子は、

「六郎君、お仕事の後なんだけど…」

彼氏の六郎に連絡した。

友子も

「久雄、夜なんだけど」

それぞれの彼氏に連絡した。二人の様子を見て、正信と悦子は幸せそうに見守った。その後、悦子と文子、友子は残りの書類を終わらせて日報を記載し、PCの電源を切り、簡単な掃除をして窓のカーテンを締めた。消灯をして部屋が暗くなったのを確認し、扉をロックをしてオフィスをあとにした。

さあ、夢の時間のはじまりだ。花の金曜日の時間が始まる。

正信と悦子は、そのままボルドーの赤ワインの様なレッドのランドクルーザーに乗り、文子は純白のウェディングドレスのような輝く白のメルセデスの四駆に、友子は漆黒の闇を駆ける黒馬の様なセダンのスポーツカーに乗り込み、ハンドルを握り、六郎と圭治が待つ黄昏の塔へ向かう。

外の雨はまだ強くなる前だったが、これから始まる花の金曜日の夜の恋は、恋世界の入口に過ぎない。

三台の車は町の港湾施設に近い地区に近づいた。

臨海公園は誰もいない。

普段の晴れた日のこの時間はペットの散歩や健康のためにジョギングをしている人たちがいるが、雨の

せいで誰もおらず、遊具やベンチは虚しく濡れている。街灯はただ暗くなったので自動で点灯し、雨夜の誰もいない公園内の通路を照らしている。

三台の車は、そんな寂しい場所を横目に通り過ぎて目的地の「トワイライトビル」へ向かう。

やがて、公園の向こうにひときわ輝く雨夜の不夜城のような巨大な高層建築物が見えてきた。

「マサくん、黄昏の塔が見えてきたよ」

「あぁ、今夜は楽しもうな」

「うん」

悦子は正信より三歳年上だ。海岸の海沿いの町で生まれた悦子は彼が修行していた岬にある美容室のお得意様だった。毎日一人前になるために懸命に働いている彼の姿に惹かれていた。それは彼も同じだった。

お店に来てくれる天使のような美しい金色を長い髪の彼女に一目惚れしていたのだ。

師匠の元で修行し、晴れて一人前になった彼は独立と同時に店を構えたのだ。愛する悦子の側で働けるようにと…

「きゃあ、未来的で美しいわ。雨夜に光るネオンのタワーなんて絵になりそうだわ」

文子が喜ぶ。

「まるで、姫路城みたいな白亜の天守閣でご立派です。まあ、来る途中に海沿いそびえ立つ我が町のシンボル「至徳城」が天下の名城ですけどね」

「あれは、模擬天守でしょう」

「アハハ、文子さんのおっしゃる通りです」

至徳城は、江戸時代に栄えた町の海を見渡せる場所に建てられた山城で天然の要塞だ。麓には六郎が勤めている街の巨大企業である製薬会社がある。

「まったく、この間もインパクトブログに天下の名城を征服したなんて書いていたけど、本当に好きなのね六郎くん」

文子のツッコミに、六郎は「コイツは参った」と手で額を叩いて笑う。彼は少しだけ江戸っ子気質な所があるが、本人もそれを自覚している。

文子はふふっと笑う。そんな十一も年下男子のそそっかしいが優しさに溢れ、他人のためなら損得無しに考えて動ける古風で男らしい所が文子は好きなのだ。

ちなみに、文子の今宵の服装だが、有名な世界のセレブたちが御用達にしている有名ブランドのエメラルドグリーンのドレスとシックボルドーのハンドバッグだ。

六郎は、動きやすいカーキグリーンのチノパンにディープブラックのTシャツの上に水玉の生地にトロピカルがプリントされた半袖カットソーを着ているが、












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花の金曜日は黄昏の塔で 古海 拓人 @koumitakuto1124

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