結露
ガラスが割れた。
また割れた。俺は茫然とそう思う。
目の前にいる先輩が笑顔で俺に話しかけてくる。また彼氏との惚気話だ。
俺はそれに相槌を打ち、ガラスを割りながらその話を聞く。
ガラスが割れる。
彼氏に向けるその笑顔を俺に見せないでくれ。
ガラスが割れる。
彼氏のために最近開けたピアスの感想を俺に聞かないでくれ。
ガラスが割れる。
彼氏といった温泉旅行の話を俺にしないでくれ。
ガラスが割れる。
誕生日にもらったプレゼントのネックレスを俺に見せないでくれ。
先輩は迎えに来た件の彼氏と一緒に車で帰っていった。
幾枚目かのガラスを割った俺は凍てつく冬の道を一人で歩いて帰る。
体が冷える。このまま自分が氷になってしまうのではないかと思うほど冷える。しかし、それ以上に冷えている自分がいる。世界のすべてが凍って見えてしまう。俺の太陽はどこか遠くに行ってしまった。またガラスが割れる。
ふと停まっている車に目を向ける。車の窓ガラスに水滴が付いていた。そうか、ガラスは結露するのだった。そう思うのと同時に頬をなでるものがあった。俺はまたそっとガラスを割った。
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