夜間巡回
ガラスが割れた。
音がした方へ向かうとそこは二年三組の教室だった。
教室のドアを開ける。手に持っている懐中電灯でぐるっと照らしみると、中庭側の窓が一枚割れていた。破片が内側に落ちていることから、外から何かがぶつかって割れたことがわかる。鳥だろうか。いや、鳥がぶつかったぐらいで割れるような窓ではない。しかし、地面を照らしてみても何も落ちていない。誰かが忍び込んだのだろうか。そう思い顔を挙げると隣の校舎に一瞬だけ人影が見えた。教員や事務員はすでに帰宅し自分だけのはずだ。正体を確かめるべく教室を出た。
ここは片田舎の中学校である。音楽室や美術室などの授業で使用する教室がある校舎と、一年生から三年生の教室がある校舎が一階と三階の渡り廊下でつながり、中庭をぐるっと囲むような形をしている。ちょうど「□」の形だ。
今は夜で、俺はこの学校の夜間警備員をしている。
ガラスが割れたのはドアや窓の施錠確認をしている時だった。一階の廊下や一年生の教室の確認を終わらし、二階の施錠確認をしようと階段を上がりきった時に音がした。
俺は隣の校舎に向かうべく階段を上がった。二階に渡り廊下がないためである。渡り廊下を渡り階段を下りると、またガラスが割れる音がした。誰かが教室を荒らしているのだろうか。しかし、廊下から教室へ耳を澄ましても何も物音がしない。恐る恐る教室のドアを開け、懐中電灯で中をゆっくりと照らす。誰もいない。ただ窓が一枚割れているだけである。違和感を覚える。しかし、違和感が実像をむすばないので、とりあえず違和感を脳の片隅に置き、じっくりと教室を見渡す。やはり誰もいない。教卓の下も確認したが誰もいなかった。
ほかの教室にいるのではと考え隣の教室を探していると、隣の校舎にまた一瞬人影が見えた。違和感。誰かの手が背中をゆっくりとなでるような悪寒を感じる。何かがおかしい。急いで階段を上がって渡り廊下を渡り隣の校舎の階段を下りた。下りきったところで、ガラスが割れる音がした。音がした教室へ向かう。二年三組。違和感が確信へと変わる。そして確信した瞬間、階段を上がって渡り廊下を渡り、階段を下りる。音がする。二年三組。走る。割れる。二年三組。言葉にならない悲鳴を上げる。ガラスが割れる。
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