chapter 21

「ハルカさんのために、あの装置を守るために……あの注射を使ったはずなのに……どうして……僕は、あの人の死を無駄にするようなことを……」


「浅倉サトル」


 数名の戦闘員を引き連れた来訪者が、岩の上に腰かけ一人項垂れるサトルに声をかけた。


「……っ! やめろ、来るんじゃない! あなた達が僕と同じ警備員だってことは分かってる。あなた達は世界のために、ハルカさんの弟と妹の未来のために必要なんだ! それを……死にに来るようなことをしちゃあ――」


「大分意識は回復しているらしいな」


「特にお前! 僕はお前を、そのアーマーに因縁がある……すまない。いや、あなたに恨みはなくとも、身体がその姿への怒りを覚えてる。言うことを聞かないんだよ、身体が。だから、帰ってくれ……頼むから……」


「サトル」


 来訪者のヘルメットが展開し、装着者の顔が現れた。

 丸山ハルカの顔だった。


「……は、え? どうして……」


「すまないな、騙すような真似をして。けど、お前が悪いんだからな。お前が、あの子たちの前であんな風に振舞うから。あの子たちの生の輝きを曇らせるようなことをするから」


「そんな……だって……」


「早乙女所長はお前とシキシマ秀典によって執り行われる聖戦によって、人の意志の力を証明し、人類に生の輝きを取り戻そうとしていた。お前には腹が立っていたが、お前があの子たちの光になってくれるならそれで許してやろうと思った。だからお前の前で死んだように装ったんだ」


「なにを、言って――」


「けど早乙女が死んで、それまで私が自分でやっていた妹と弟への配給は引き継がれなかった。私が目覚めたときには、あいつらは飢えて死んでたよ。だから、もういいんだ……」


 サトルも混乱したが、それはハルカが引き連れてきた戦闘員たちも同様だった。

 戦闘員らはお互い顔を見合わた。


「そんな……だったら、僕は一体、何のためにこんな……こんな……」


「サトル。私を好いてくれているなら、私のためにこの何の希望もない世界を壊してくれ」


「なんなんですかあなた……本当に、何しに来たんですか……」


「仕事で気を紛らわそうとしたけど駄目だったんだよ。結構頑張ったんだぞ、お前の相手をするのも。けど、光を失うと、途端に見たくないものまで見えてくるんだな。忙しさだけじゃ忘れられなくて……」


「ええ、分かります。分かりますよ! 僕も、あなたを失ってからは……ハルカさん。僕、僕はね、本当にあなたのこと、好きだったんですよ! なのにそんな、悲しいこと言わないでくださいよ! なんだってそんな……」


 ハルカはサトルから目を逸らした。


「私もお前が好きだ」


「えっ――」


 その時、ハルカの額は銃弾で貫かれた。

 即死だった。


 崩れるように倒れ込む亡骸を、サトルは抱きかかえ、嗚咽交じりに泣く。


 戦闘員たちはいきなりの出来事に困惑した。


 ひとりの戦闘員が思わず後ずさりをする。


 その足音に反応するかのように、サトルが顔をあげ、睨みつけた。


「お前らがやったのか!」


「違う! 何だって俺達がそんなこと――」


「黙れ! ハルカさんが不都合なことを言ったから、口封じをしたんだろ!」


「そんなことして俺達になんの得がある……お前を怒らせるだけだってことぐらい分かる! 俺達が無防備になることだって分かる! それに、俺達だって何も知らなかったんだ! アーマーの装着者のことも、丸山の家族のことも!」


「僕に会いに来るような馬鹿なやつらだ! 慌てて、とち狂って撃ったんだろう!」


「よく見ろ! 俺達はずっとここにいた! ここからじゃ撃てない!」


「僕の後ろにスナイパーを待機させていたんだろう!」


「お前は狙撃じゃ死なないだろ!」


「けどお前たちも銃を持ってる! 無駄だと分かってるのに、銃を持ってる! だから! 銃を持ってる!」


「落ち着け――」


「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 サトルは足音を立てた戦闘員に飛び掛かった。


 戦闘員はアサルトライフルを乱射して抵抗するが、サトルの皮膚は弾丸を弾き、弾かれた弾丸は戦闘員の胸を貫く。


 さらに追い打ちをかけるように、サトルは頭を鷲掴みにして握りつぶす。


 他の者も後退しつつ掃射を開始する。

 だがサトルが怯む様子はない。


 サトルは羽をはばたかせる。

 すると、かまいたちの如く戦闘員たちの皮膚に傷ができ、あっという間に消し炭になった。


 辺りを見回すサトル。


 サトルは遠くに狙撃手の姿を見止め、ひとっとび。


 スコープの向こうの目標を追いきれず、あたふたとしていたところを目と鼻の先に着地し、その衝撃で吹き飛ばす。


 仰向けになった男に跨り、腕を振り上げるサトル。


「違っ――俺じゃない!」


 サトルは咆哮し、腕を振り落とす……が、寸でのところで止める。


 そして、のろりくらりと立ち上がる。


「ヒッ……」


「行けよ……」


「……え」


「早くどっかに行けよ!」


 サトルが怒鳴ると、狙撃手はサトルの股の間を這って抜け出ると、ライフルを放って一目散に逃げだした。

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