chapter 16
もともと二人分しかなかった寝床を誰が使うのかが議題にあがったときには流石の田利本も困惑を顔に出さずにはいられなかったが、彼らの育ちが良さゆえか、本来の住人である田利本を追い出したり、外で寝かせたりしようという話にはならず、田利本とサクラがベット、残りは半数ずつに分かれ、夜毎に寝袋を屋内の廊下に敷く組と外に敷く組とを交互に入れ替えることとなった。
寝室と廊下とは引き戸で仕切られていたが、引き戸は二人が寝床に着くと、独りでに隙間をつくり、その隙間から視線を通したので、田利本の気は休まらなかった。
引き戸の手前を陣取っていた者を問い詰めても、扉の立て付けが悪いのだろうと一蹴されてしまった。
そんなこんなで、ガレージにブルジョアたちが押しかけてきてから三週間が経ったその日。
来訪者が訪れた。
「お前は――」
来訪者は、改修されたシキシマ秀典のアーマーを纏っていた。
田利本は激怒した。
「お前、よくも! よくもシキシマさんのアーマーを!」
「田利本君、落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるか!」
今にも殴り掛かろうとする田利本を数人がかりで静止する。
ブルジョアの一人が来訪者に問う。
「なにが目的だ」
「常盤サクラを引き渡せ。要求はそれだけだ」
「断る!」即答だった。
ブルジョアたちは慌てて立ち塞がるようにサクラと来訪者の間に割って入る。
「私がネゴシエーターに見えるか?」
来訪者は一歩踏み出した。
田利本を羽交い絞めにしていたブルジョア達も、田利本がどうなろうと知ったことかと言わんばかりにサクラの方へ駆けていく。
拘束を解かれた田利本は、そんなことはお構いなしに来訪者に殴り掛かる。
来訪者は田利本の拳を片手で受け止めてみせた。
ビクともしない。
「は?」
だが、来訪者は少し困惑した様子だった。
来訪者は田利本を蹴り上げた。
吹っ飛ぶ田利本。
ブルジョアの男どもが、鉄パイプやらフライパンやらを握りしめて田利本に続く。
来訪者は弄ぶようにして次々と繰り出される男どもの攻撃を避ける。
そして、男のひとりが苛立ちを顔に出したのを見止めると、待ち構えていたかのようにグイっと間合いを詰め、そっと首筋に手を触れる。
指先から放たれた電撃は、男を一瞬にして丸焦げにした。
続けてその光景に目を見開いた男を、間髪入れずに炭に変える。
「まだやるか?」
残されたブルジョアたちはただただ立ち尽くすのみだった。
来訪者は己が動線上で硬直したニ、三人を雑に払いのけながらサクラに近づき、荒っぽく担ぎ上げた。
気絶していた田利本が意識を取り戻す。
田利本は腰から拳銃を取り出し、来訪者に向けて数発発砲。
アーマーの肘関節に弾が命中し、来訪者の左腕は力が抜けたようにだらりと下がる。
「チッ」
来訪者は大地を蹴り、飛び去った。
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