第49話、熱血全力少年、今更ながら究極善人優男の事、思い出す





泣き疲れて眠り込んでしまったオレたちは。

開かれた扉から入ってくる、太陽の光で目を覚ました。


観覧車のゴンドラは、降り場より少し高いところで止まっている。

オレたちは、何とかしてそこから降りると。

目の前は随分前に見た記憶のある入り口の場所だった。

見覚えのある券買所と、少し寂れた『ようこそ、三輪ランドへ!』の看板。



「……出られたんだ、オレたち」

「うん。そうだね」


いろいろな感情がない交ぜになっているのだろうが、それでもまどかちゃんは微笑んでいた。

どちらからともなく繋ぎあった手に、柔らかな力がこもる。

それはオレの力なのか、まどかちゃんの力なのか分からないくらいに、自然な動作だった。


と。


「あーっ! みゅうったら、こんなところにいたーっ!」


突然の甲高い、子供のような黄色い声に、二人してびくっとなる。

……だってそれは、ありえないはずの声だったから。


オレは恐る恐る声のしたほうに振り向く。

そこには、これからどこか探検にでも行こうかという様子の、二組の男女がいた。


「か、かかか快君? 中司さん! アキちゃん? それに、峰村さんまで! どっ、どうして?」


快君と中司さんは、無事だったのか?

峰村さんは用があって来られないんじゃなかったっけ?

っていうかアキちゃんは今までどこにいたんだろう?

やばい、何だか混乱してきた。


「どうしたもこうしたもないでしょうが、みゅうく~ん! 一応班行動なんだからさ、連絡くらいしようぜぇ? 一人抜け駆けは、いけねーなあ」


アキちゃんが青いロン毛を靡かせて、そう言ってくる。

抜け駆け? オレが?


「それはアキちゃんの方だろう?」


思わず耳を疑い、聞き返す。


「何を言っているのよ? 久保田は私たちと今まで一緒にいたわよ」


しかし、中司さんが当然のようにそう言ってきた。


「おいおいそりゃないぜ、みゅうっ。オレ様ってこう見えても、こういう決まりごとにはうるさいんだぜぃ?」

「だからみゅうはやめろって!」


半分何言ってるかも分からずに、反射的に返したのはそんな言葉。



「先に行くなら、一言そう言ってくれればいいのに。ボクたち、部長に先に行ったって言われなかったら、ずっと駅で待ってるところだったよ。理由はお隣の彼女さん?ボク、知らなかったよ。みゅうにこんな可愛い彼女がいたなんてさ」


快君が、隣のまどかちゃんを見て、しきりに感心している。


その言葉が決定的だった。



「……え?」

「ちょっと待ってくれよ! 快君、君はこの中で、まどかちゃんと会ってるじゃないか、中司さんだって!」

「……? 言ってることがよく分からないわ。私はあなたに彼女を紹介された覚えはないし、ここに来るのも初めてよ? 夢でも見たんじゃないの?」


夢? あれが夢だったっていうのか?

呆然として俯きかけると、中司さんの足の白いマニキュアが目に入った。


「でも、オレ、そのマニキュア覚えてるよ? 探策しに行くのに、そりゃ間違ってるだろって思ってたから……」


忘れろと言われても、忘れることなんてできない。

そんな色濃く残る白だ。


「間違ってて悪かったわね、それにこれはマニキュアじゃなくてペディキュアよ。それぐらいは知ってなさいよ」


中司さんの、説教じみた言葉も、頭に入ってこなかった。

じゃあ、今まであったことは、何なんだよ?


「あっ!」


その時、隣にいたまどかちゃんが、突然声をあげた。

震えが、手のひらから伝わってくる。

何となくその視線を追うと、その先には快君がいて。

その後ろ手には、ギラリと光る何か。


「か、快君っ! それは……っ」


剣だ。雨の魔物の剣!

じゃあ、やっぱり!


「ああ、これ? なーんだ、見つかっちゃったか」


そう言って、一メートルは軽くあるだろう剣を、快君はその細腕で、いとも簡単に掲げて見せた。

その様子に、オレたちはそろって身構える。


「こらっ。そんなもの、掲げないのっ。二人とも、怖がってるじゃない」


まるでお姉さんみたいに。

嗜めるようにして怒ったのは、中司さんだった。


「えー? 別にいーじゃん、中身はただのプラスチックなんだしさ。……すごいでしょこれ、途中のおみやげやさんで買ったんだ。千五百円だったよ」


そう言って快君は得意げに、その剣をくるくるとペン回しみたいに回転させた。

あまりに剣捌きが手馴れていて、正直笑えない。

本当に偽者なんだろうかって考えていると。

びくりと跳ね上がってしまうくらいに大きな声を出したのは。


今までその存在を忘れていたなどと。

申し訳なくなるくらいにその存在を主張している、あきちゃんで……。



   (第50話につづく)






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