第21話、熱血全力少年、心得を謳い説教する




まぁ、そんなわけで無駄なお怒りを買うこともなく。

ランチとあいなったわけだけど。


快君特製ランチ(サンドイッチと俵おにぎり、玉子焼きやたこさんウィンナーをはじめとする鉄板なおかずの数々)は、元々5人ぶん作ってあったらしく、恐縮して遠慮していたまどかちゃんが加わっても、十分すぎるくらい満足のいくものだった。

話題は当然、そのおいしいランチを作ったのが快君である、ということに終始する。



「相変わらずむかつくほどおいしいわね」

「なんでだろ。ありきたりのラインナップと言えばそうなんだけど、味付けが違うのかな」

「いいなぁ、おいしいお料理作れるのって」


三者三様の対応。


「いやぁ、それほどでも?」


快君もまんざらでもないらしく、身体が反り返らんばかりの勢いであったが、そんな勢いに乗ってる快君が気に食わなかったらしい。


ついさっきの腹の虫の件もあったんだろう。

ふんと中司さんは鼻を鳴らして。


「あなた本当は女の子なんじゃないの? 双子の妹とあんなにも似てるんだし」


その言葉通り、快君には、双子の妹がいる。

部長を魔法使いだと信じてやまない純粋が服着て歩いている子が。


彼女は、快君にとてもよく似ていた。

まるで同性しか生まれないはずの、一卵性双生児のように。


それは、悪意ほどには強くはないが、明確に快君を責める言葉だった。

違和感。

それを口にすればどうなるかくらい、中司さんならよく分かってるはずなのに。



「ぼ、ボクは男だよっ! それに料理は男の仕事だもん、コックさんは男のほうが多いもん! 食べることが仕事のくせに言われたくないっ!」

「何ですって?」

「ふんだ。凄んだって怖くないもんっ。さっきだってボクのランチに反応してお腹鳴らしてたくせに!」


あっという間に一触即発の気配。

いきなり始まった喧嘩にどうしていいか分からずおろおろしているまどかちゃん。

不謹慎にも、そんな姿さえ可愛いと思ってしまって。




「ったぁ~っ!」

「な、何をするのよ!」


ほとんど顔を付き合わせる勢いの二人に割って入り、オレはおもむろに、きついデコピンをお互いにお見舞いする。


侮るなかれ、これが結構痛い。

二人の怒りの矛先は、そのままオレの方へとシフトチェンジする。


正直中司さんなんか本気で怒っててガグブルものだったけれど。

折檻くらう前に、オレは素早く口を開いた。


「輪詠拳の心得第二五曲目、『何かを食べることで僕らは、確かに生きている』。傍で見てるオレたちも気分悪くなるし、何より食べ物に失礼だ。それでも不満なら、食った後に聞こうじゃないか」


ほんとに食べた後に来たらどうしよう、なんて内心思っていたけど。

これが以外や以外、うまくいって丸く収まるのだ。


快君のランチはおいしい。

怒ってたことなんて、どうでもいいことだと思えるくらいに。

だから食べることって幸せだと思えるんだろうなって、ちょっと思う。



「ごめんなさい、言いすぎたわ。せっかくわざわざ作ってもらってるのに」

「ううん、僕も大人気なかった。ごめんね」

「……」


始めは黙々とした食事だったけれど、そのうち我慢できなくなったみたいに中司さんがそう切り出し、快君もそれに倣う。


すっかり元の鞘な様子に、まどかちゃんは不思議なものをみるような驚いた顔をしていのが印象的で、微笑ましかったけれど……。





そんなこんなで、何とか楽しくおいしい、ランチを終えて。

軽く腹ごなしをした後、オレたちは行く先を塞ぐジェットコースター……『リバース・ロマンティ』に乗り込んだ。


十数人乗れるそれに、さっきのことなんかなかったんじゃないのか人の気も知らないでってくらいに朗らかな中司さんと快君、その後ろにオレとまどかちゃんがつく。


係員の姿もなく、出発のベルも鳴らないジェットコースターは、オレたちが安全ベルトを止めるか止めないかのところで、ガタガタと車体を揺らし、レールの上を滑りだした。


その道はそれほど広くなく、単線になっている。

行こうと思えば、レールの上を歩くこともできるだろうが、ほぼ確実にジェットコースターに追い立てられる羽目になるのだろう。

というより、一体これってすれ違いはどうするんだろう、といった感じで。

それは、そうは言っても取り分け気にしてはいなかった不安ではあったんだけど。



「ね、ねえ? 前からもう一台来るんだけど」

「し、しかもヤツラが乗ってる!」


慌て怯える前席の二人。

どうやらオレの不安は的中してしまったらしい。

しかも厄介なことに、先程まどかちゃんにちょっかいをかけてきた奴らの仲間らしく黒ジャージの男達が四、五人、そのジェットコースターに乗っていた。



「……っ!」


無意識なのか、さっき絡まれたのが尾を引いているのか、古い羊皮紙の巻物をぎゅっと抱え直したまどかちゃんは、その反対の手でオレのジャンパーを掴んだ。


震えているのか揺れのためか、恐れているのか。


せめてもの救いは。

こちらと同じように。

あちらさんもやってくるオレたちに驚いてるってことなんだけど……。



   (第22話につづく)






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