第14話、熱血全力少年、夢で見たとりどりに煌くサーキュレイトに邂逅す
それはともかくとして。
あの雲の厚さだと雨が降ってくるかもしれない。
この辺りには空を覆う屋根がないので、降られると少しきつい。
何故ならば、ダメなことにオレ自身傘を持ってきていなかったことに気づいたからだ。
まあ、きっと快君なら持ってきているだろうからいいかななんて思いながら、引き続き空を眺めつつ歩を進めていると、霞むほどの遠目に、今度は色とりどりのゴンドラが視界に入り込んでくる。
それは、観覧車だった。
よくある、だけどどちらかと言えば大きい方の部類に入るもの。
オレはぼんやりとそれを眺める。
観覧車ってどうしてあんなにゆっくり回るんだろうな。
そのゆったりした時間の共有がいいらしいと聞くけど、
オレはそんないい時間を共有、だなんて思える人と乗ったことがないから、それを知る術も当然ない。
たまにはすごいスピードで何回転もする観覧車があってもいいんじゃないかって思ったりもする。
そんなことを考えて、オレはそこで初めておかしなことに気付いた。
「あれっ、観覧車が動いてる!」
「わっ、ホントだ」
「ま、勝手に入り口が塞がるような場所なんだもの、今更それくらいでは驚かないわ」
素直に反応する快君とは対照的に、当然ね、とばかりにそう言ってくる中司さん。
「うん、そうなんだけどさ、あれってやっぱりここに人がいるってことにならない?」
そう、その方が、勝手に動いていると判断するよりははるかに現実的だった。
「つぶれてるってのは嘘で、実は密かに開園してるってこと?」
快君の言う通り、それならさっきのバスの説明がつくし、今までのもアトラクションの一環だったんだって納得できるけれど。
「どうしてわざわざ入り口を閉めて、秘密にする必要があるわけ?」
確かにそ子なんだよなあって思ったオレは、その場で考え付いたことを口にした。
「うーん、ここの関係者とか、お金持ちとかに貸し切りにしてるとか」
または、実は映画とかの撮影などに使われている、なんてことも考えられる。
「それか、一般の人には知られたくないようなことが行われてたりして?」
快君が笑顔のままさらりと怖いことを言ってくる。
何なのさ、それって!
「ま、どっちにしろ他の人に会ってみないと始まらないわね。私としては黒陽石を見つけ出す前につまみ出されないことを祈るわ」
「はは、そればっかりだな」
「いいんじゃない? ボクも見てみたいもん」
黒陽石、ねえ。
そんなに言うほど、拝む価値があるものなんだろうか。
例えば水晶でできた髑髏とかなら、見たい気もするけど……。
そんな感じで、再び始まってしまった二人の黒陽石談義に密かな蚊帳の外気分を味わっていると、やがて、入り組んでいた白塗りの壁が不意に開ける。
「うわあ」
「へえ、なかなか凝ってるじゃない」
「……っ」
快君は驚いたように、中司さんは感心した様子で、目の前に広がる景色に圧倒された言葉を吐く。
かく言うオレは二重の意味で言葉を失っていた。
いきなり異国……中世ヨーロッパの世界に迷いこんでしまったかのような雰囲気と、激しい頭痛のような既視感。
それをどう表現すれば正しいのか。
例えるなら、ずっと失くしていた最後のパズルの一ピースを見つけたと時のような嬉しい気持ちと、寂しい気持ちがオレを支配する。
オレの体は震えていただろう。
それは、寒さでも、恐怖でも、武者震いでもなく。
洗練された一級の音を、耳に住まわせた時に感じる震え。
そう、それは間違いなく。
夢で見た、雨に隠された煌びやかな世界そのもの、だったんだ……。
しかし、そんな景色に浸っていられる時間は長くは続かなかった。
広場に入ってすぐに感じたのは視線。
それは一つじゃなくて、
オレでも解るくらいに、無数の視線に晒されている。
それは、恐れ、怯え、警戒、あるいは怒りといった負の感情。
獲物が近付くのをじっと待つ、というよりは。
早くここから立ち去って欲しいと願っている感じがした。
どこにその視線があるのか、何となくは分かるのだけど。
目を合わせようとすると、さっとそれは隠れて消えてしまう。
一度に多くの嫌悪の視線なんて受けた経験がないオレは、それをただ受けることしかできなかった。
「……っ」
例えるなら、苛烈なファンの集まるアウェイの球場に乗り込んだプロスポーツ選手の気分、だろうか。
それに、お化けを見た時に感じるようなゾクゾクを加えたら、今みたいな雰囲気を味わえるかもしれない。
見たことがないので、感覚だけだけど。
「……っ」
「うーっ」
中司さんや快君も同じようで。
その場には何だか奇妙な膠着状態が続いていて……。
(第15話につづく)
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