第13話、熱血全力少年は、見賢思斉の姉の語りを否定できずただ唸る
オレたちは急激な展開に慌てふためきつつも。
お互いがお互いの方法で、自分を何とか落ち着かせた後。
地図のある場所から当初の予定通り、土産屋であると言う『プリヴェーニア』に向かっていた。
幸いなことにそこまでの道のりには変化がなかったし、何かしていないと、そのうちこの白い壁に押しつぶされるんじゃないか、なんて考えたのもある。
半ば早足で進む先に見えるのはそんな白塗りの壁、そして空の機嫌が悪くなったのを表すかのような……灰色の雲の塊だった。
「あれって入道雲だよな? あんな厚くてでかい雲、真夏にしかないって思ってたよ」
「そういえばそだねぇ。普段はこんはふうに雲見る機会なんてないから、気が付かなかったよ」
元来飽きっぽい所のあるオレは、単調な白の道のりにすぐに耐えられなくなり、そんなことを口にした。
それにうまい具合に相槌を打ってくれる快君は、流石に聞き上手、と言ったところか。
「そうかしら? 入道雲……積乱雲なんて、一年中あるものでしょう? 雨は一年中降るんだし」
するとすかさず、会話に参加するべく、中司さんの鋭利な突っ込みが入る。
それだけを取っても、中司さんの会話ベタな所? が良く分かる。
なんて言えばいいのか教科書的なのだ。
その融通の利かない所が、逆にいい人にはいいのかもしれない……なんて事を考えていると、そんな中司さんの言葉を受けたのは、快君だった。
「そうなの? だってあの入道雲だよ? 夏だけのものじゃなかった?」
知らないの?って感じの快君の疑問。
それにオレは、思わずうわっと声を上げそうになった。
怒られるって、そう思ったからだ。
「そうね……」
「……?」
しかし、中司さんの態度は、オレの予想とは異なっていた。
何を話そうかと、考え込むかのような仕草も、何だか柔らかい。
「それは入道雲がその名の通り、だいだら法師(ぼっち)の化身で、私たちの生きるこの大地を空から見守っているから……かしら」
「えぇっ?」
思わず出た言葉は。
一見中司さんらしくなさそうにも聞こえる、突拍子もない言葉に対しての驚き。
まるで小さな弟に寝物語を読んであげるかのような物言いは、オレを唖然とさせるのには十分だった。
「何? その思い切り胡散臭そうな声は?」
「い、いやっ。別にっ」
そんなオレに気付いて、中司さんはオレのことをギラリと睨む。
『超研』に入っているのだから、このくらいのことは当然として流しなさい、と言わんばかりだった。
「ダイダラボッチって、そう言えばそんな名前の歌、あったよね。だらぼっち~って」
首を傾げ、そう言えばと相槌を打つ快君に。
オレへの態度はどこへやら、再び上機嫌に、中司さんは語りだす。
「そうね、童謡にもあるように、大地を司る神様の一人だと言われているわ。その姿は山より大きくて、みんなが寝静まった夜に、そっと大地を作り変えるの。その力は強大で、そこに住む生き物は全て、大地が作り変えられたことに気付かないと言うわ」
誰にも気付かれないのに、どうしてだいだらぼっちにそんな力があるって分かったんだろうという疑問はとりあえず飲み込んでおく。
一方、快君はそれを聞いて何か気付いたらしく、ぽんと手のひらを叩いて、言った。
「じゃあ、さっきの迷路の地形が変わったのも、だいだらぼっちの仕業なんだねっ」
「え? ま、まあ。そう言うことになるのかしら」
「……うーむ」
でも、誰にも分からないんでしょう?
おそらく中司さんの創作なんだろうな、って判断して。
オレは思わず唸ってしまった。
すると案の定、ぎろっと睨まれる。
「あら? まるで信じてないっていった感じね?」
「いや、まあ……その」
凄んでくる中司さんに、オレは愛想笑いを浮かべるしかない。
だってそれ、そもそも妖怪漫画のネタじゃん。
「それじゃあ、雄太にそれは違うって言うことを証明できる術が、何かあるとでも言うのかしら?」
「……いや、ないけどさ」
「それなら、私の考えが正しい可能性もあるわけでしょう?」
可能性とか言ってる時点で駄目な気もするけども。
そういう言い方をされると、無論反論できるはずもなく、オレは頷くしかない。
「それにね、例えばここにいる私たちが、ここに生きて、立っているってことだって、証明はできないでしょう? 結局全ては思い込みの産物。きっとそう思うことこそが証明になるのよ、おわかり?」
「う、うーん」
「はーい、良く分かったよー」
世の全ての不思議なことは、不思議だと思うからこそ、不思議として存在していられる。
はっきり言って暴論だった。
人の事は言えないけど、俄かの知識を披露して、本当はその知識に追いついていないのに、得意になってそうなところとか。
まぁ、それでも。
オレにはこの白い壁が動く理由について、証明できるものは何もないわけで。
そう言うものなのかなと、納得せざるを得ないと同時に。
まるで疑いもせず信じている快君が、何だか羨ましかった……。
(第14話につづく)
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