第9話、熱血全力少年、見賢思斉きょうだいと合流する
所変わってオレは、集合場所の東京駅にいた。
時間がまだ早いこともあり、ちょっと肌寒かったが、それに対しての備えはばっちりだったので問題はない。
これから向かう大型テーマパーク『三輪ランド』は、新幹線で約一時間半、そこからバスなどを使うらしいが。
行き帰りに何時間もかかる海外組に比べれば確かにお手軽な気はする。
海外に行けなかった負け惜しみじゃないけれど。
時間が掛かればかかるほど、トラブルに会う確率だって上がるし。
どうせなら、それ自体が目的でない限り、移動に暇をかけたくないっていうのが、心情だろう。
それはさておき、オレはどうやら一番乗りだったらしい。
十分前行動がデフォルトなオレにとってはよくあることだが、一人であることには流石に不安は隠せなかった。
何故なら実地体験は、他のメンバーが参加するかどうかは当日になってみないと分からないからだ。
普通こういうものは、前の日に参加不参加を確認するものじゃないんですかと部長に問えば、自分の価値観を人に押し付けないでくれたまえよと、何故か逆に怒られる始末。
当日まで分からないのは部長の趣味、価値観なのだ。
一応、危険な目に遭う可能性もあるため、『そう言う覚悟があるものだけ集合場所にやってくる資格がある。その覚悟があるのか、よく自分を見つめ直したまえ』、というのが建前らしいけど。
動きやすく長時間の山登りや探索にも耐えられる軽めのリュックサックを背負いなおし、何をするでもなく他のメンバーを待っていると。
ほどなくして二人の人物がやってくる。
一人は中司由魅(なかつかさ・ゆみ)さん。
常に何かしら(香水の類だろう)いい香りのするブラウンの長髪の美人で。
服装のセンスも良く、『格好良い』というイメージがあって。
性格は気にならない程度に強い、といったところか。
例えば、英語かなんかの教師をやらせたら、ばっちりはまりそうな、まさにそんなタイプだ。
もう一人は麓原快(ふもとはら・かい)君。
入学当初からの付き合いで、サークルだけでなくゼミも同じで、話のあう友人の一人だ。
特に気を使ってるわけでは無さそうだが、こざっぱりとした栗色髪で、小柄だけど男のオレから見ても美形で。
それが嫌味にならないのは彼が人当たりのいい穏やかな性格の持ち主である。
穏やかというよりは子供っぽいだけ、と言うのは中司さんの弁だが。
こうやって連れ立って歩いてくるのを見ていると、仲の良い姉弟に見えなくもなかった。
「おはよう。二人で来たのかい?」
「ああ、雄太君、おはよう。中司さんとはさっきそこで会ったんだよ」
オレのあいさつに、快君はにこりと笑みを浮かべて答える。
まだ男も女もないころのような、純粋なスマイルだ。
それに続くようにして、それでも対照的に、中司さんは「おはよ」と一言だけ挨拶を済ませると、何か言い訳するみたいに言った。
「本当は沙紀と来るつもりだったんだけどね、急用で来られなくなったのよ」
なんだ、峰村さん来られないのか。
そんな事一言も言ってなかったのにな。
まぁ、こういう場合のために参加不参加を伝えないのかも、とは思えるけれど。
そう言う中司さんは、つれない友人のせいと言うには少し大げさなほど、機嫌が悪そうだった。
「てことは、後はアキちゃんだけかな?」
オレは話題を変えようと今回のメンバーの最後の一人の名前をあげる。
しかし、どうやらそれが地雷だったらしい。
快君が、言っちゃったっていう顔でおろおろとする中、中司さんはさらに機嫌を悪くなり、肩を怒らせて言った。
「久保田なら先に行ったわ、もう!」
「えっ? 」
オレは思わずそう聞き返し、首をひねる。
感じるのは、強い違和。
来られないんじゃなくて、先に行っただって?
そんな事する奴じゃないはずなのに。
国内組メンバーの最後の一人であるアキちゃんは、大会社の社長の御曹司で、髪を青色に染めた、一見するとちょっと軽い感じの男だが、御曹司であること以外はブラフで、ハッタリであることをオレは知っている。
ほんとのところは、お金持ちのお坊ちゃま的な悪いイメージとかはまったくもってなくて、純朴で真面目な……こういった団体行動なんかはきちんと守る奴なんだけど。
そんなオレの疑問は憤慨する中司さんに代わって快君が答えてくれた。
「えっと、本当かどうかは分からないんだけど。今回行く三輪ランドって所に、そこのオーナーの隠し財産が眠ってるんだって」
オレだってそうだが、中司さんの機嫌が悪いのが苦手というか、怒られた子供のような声色だった。
だから先に行ったみたい、という言葉を飲み込んで、中司さんのほうを伺いながら快君がまごまごしていると、悔しさをにじませ、機嫌の悪いまま中司さんが後をつなぐ。
「その財宝ってのが何でも黒陽石らしいのよ。久保田の奴、先に行ってそれを独り占めする気なんだわ!」
しかも、あんまりよろしくない怒りかただ。
まるで目の前ではっきりそう言われたかのような物言いだったが。
オレはその話を聞いたのが、今が初めてだったので、何も言えなかった。
言わなかったっていってもいい。
怒る人の中でも……特に中司さんみたいな自我の強い人の怒りにリアクションするのは、返って逆効果だってことを、身をもって知っていたからだ。
例えるなら、被害者と加害者。
この場合、どっちがどっちだか分からないけれど。
一方的な見解だけでは判断したくなかった。
だからオレは不機嫌な中司さんを快君と一緒になんとか宥め。
逆に急かされつつも、目的地へと向かう新幹線に乗り込むのだった……。
(第10話につづく)
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