第2話、熱血全力少年、人の話を聞かない自分を反省する
そんな感じでまんまと乗せられて、半年あまり。
今まで何も起こらなかったのだから、いきなり現実が大きく変わるはずもなくて。
オレは、オレだけが何も起こらない現実に取り残されたままだった。
部長は面白いしいくつもの興味深い話をしてくれるけれど。
他の部員が口を揃えて話の種にするようなサプライズはオレの身に訪れることはなかった。
現実なんてそんなもんだって、今は達観している部分も確かにあったけれど。
「……まあいいや。それで、話ってなんですか?」
部長の、心を読んでいるんじゃないかっていうくらいの鋭い突っ込みは、いつもの事だし、オレ自身がそう言われるのも良くあることなので、気にしてもしょうがないだろうと納得しつつ、部長に続きを促す。
「ふう、やれやれだな。やっぱり話を聞いてなかったか。この時期になると考え事が多いようだが、何かあるのか?」
すると部長はふうと息をついて。
知的な感じでメガネを引き上げながら不思議な銀色に光る瞳をこちらに向けてきた。
疑問を、疑問で返される。
部長の探究心に、どうやら火をつけてしまったらしい。
……何があるのか。
オレは、部長の言葉を心内で反芻し、その事について考え、答えた。
「うーん。そんな大層なものじゃないんですけど、夢を見るんです。昔から見続けてる、同じ夢なんですけど」
この時期。
夏の終わり頃になるといつも感じる雨の気配。
何でそれを感じるのかオレには分からなかったから。
今引き出せる一番近いであろう答えを口にする。
「夢か。一体どのような? 差し支えない程度に教えてもらえると助かる」
「簡潔に言えば、雨の中にいる夢ですかね。どしゃ降りのような霧雨のような……とにかく視界が悪くて、だけど視界いっぱいにチカチカした眩しい光が踊ってるんです。その夢にはちゃんと色もあって、それで……」
「目の前に誰かいる、か?」
ぎょっとした。
本当は夢かどうかも曖昧なそれの、一番曖昧な部分を言い当てられたからだ。
「しかし、誰かはよくわからない。そんな所かな?」
「何で分かったんですか?」
驚きよりも、興奮の方が強かった。
オレにもついに来たと、そんな予感にさせてくれる。
「分からいでか。夢に何者かが出てくるのも、それが誰だか分からないのも想定できる範囲内だろう?」
カマをかけてみただけ、部長はきっとそう言いたいのだろう。
何だ違うのかって、あからさまに肩を落とす。
そんなオレをどう思ったのか、いつもの面白作り話を始める前のような、含んだ笑みを浮かべ、部長は言葉を続ける。
「それはあれだな、『同調世界』などと呼ばれるものだ。雄太くんが日々二次の世界で目撃しているものの中にあるだろう? この世界のどこかに、雄太くんが見たものと同じものを共有している人物がいて、同じように悩んでいる。誰だこいつは? はっ。まさか運命の人、ワタシに気づいて! ……なんてな」
大げさな身振り手振り。
大根と呼ぶことすらおこがましい、適当な語り口。
あからさまな冗談。
だけどそこに、一抹の事実を混ぜてくるから憎らしい。
『同調世界』の話は、最近ニュースにも取り上げられていた。
何でも、心の波長が合う人が同じ夢を共有するらしいとか。
言葉を持たない生き物たちは、その同調世界によりコミュニケーションを取ってるとか。
胡散臭いって言えばそれまでで。
今の部長のように、明らかにジョークだと主張されながら耳にしたほうが、よっぽど受け入れやすいだろう。
「夢の世界に浸るのはおおいに結構。だが、今度からそう言うのは僕の話を聞いてからにしてもらいたいね?」
歌うように同意した後、部長は呆れたように言葉を発する。
「うっ。すみません」
確かにそうだ。
人の話を聞いてるときに考え事をしてましたなんて目も当てられない。
どうも、人の話を聞くのって苦手なんだよなあ。
オレはとにかく平謝りして、その話とやらを聞くことにして……。
(第3話につづく)
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