第19話 青天の霹靂

ぼくとミレイユは結婚した。

まあ、生活は今までと変わらないけれど。


玄関の扉を開けたら直ぐにミレイユに抱きつかれる。


「ミレイユ、ただいま」


「お帰りなさい、ツカサ」


何だか前より積極的になった気がするのは気のせいだろうか。

それとも今まで遠慮していたのだろうか。

ちなみに呼び方も変わった。

さん呼びだと他人行儀だよね。

ぼくはミレイユの頬に軽くキスをする。


新婚さんみたいだなぁと思う。

新婚さんなんだけど。


最近ぼくは城に行ったり、領地を見に行ったりと少しずつやることが増えてきた。

前はほとんど家で仕事をしていたのだが。


「私が護衛ごえいしたほうがいつも一緒にいられるのに・・・。」

ミレイユは頬を膨らませている。


「まあ、そう言うなよ。領主婦人に何かあったら大変だろう?」

ぼくはミレイユの頭を撫でた。


ミレイユは領主の婦人という立場になってしまった為、狙われてもおかしくない立場なのだ。


「今度の視察は一緒に行こうか?」


「うん。約束だぞ?」


言葉使いが少し丸くなった気がする。

可愛いなぁ。


「実家行きたいな・・・。」

ミレイユが呟いた。


「ごめん、今忙しいから無理だよね。でも両親が心配してるかなって思うと・・。」


結婚式は早くしなければならなかった為、近くの人しか招待できなかった。

ミレイユの実家に挨拶に行かないとだよね。


「順番が逆になって申し訳ない。早めに行けるように頑張るよ。さ、部屋に行こうか。」

ぼくはミレイユの手を取った。




「行って来ていいぞ。新婚旅行もまだだろう。」

リンとした声が響き渡った。


「まさか・・・。」

ぼくは夢を見ているのかと思った。


屋敷の入口に見知った姿。

ぼくは信じられなかった。

どうして・・目の前の人は本物なの?

まさか幽霊じゃないよね。


腰を抜かしているトステル。

他のメイド達も動揺を隠せない。


スラっとした長身の紳士。

金髪、茶色の瞳がぼくを見つめた。

隣には金髪ロングヘアの優しい青い瞳の淑女。


「だ、旦那様?幽霊ではございませんよね?」


「ただいま、皆すまなかったな。少し到着が遅れてしまって・・。」


声は紛れもない父の声だった。

少し疲れているようだ。


死んだ気がしない――。

確かにぼくもそう思っていたけれど、これはどんな冗談だ。


「お父さん?本当に?」

ぼくは近づいて顔をぺたぺた触った。

どうやら実物のようだ。


「やっと信じてくれたみたいだな。まあ、仕方無いか・・ひと月も経ってしまったのだから・・・。」


「ツカサのお父様?」

ミレイユも不思議そうに見ていた。


「少し休ませてくれないか・・その前に風呂に入った方がいいな。」


慌てて、トステルがメイド達に指示を出す。

屋敷の中が一気に騒がしくなった。

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