第14話 オトベ・レイヤ

「ミレイユ様?」


メイドのアエラの手が止まる。

私は窓ふきをしていたアエラさんに声をかけた。


「ミレイユ様がツカサ様にお礼がしたいと?」


私はアエラさんに相談してみる。

アエラさんとは一緒に街に出かけて以来、色々と話すようになり年齢が近いこともあり仲良くなった。

今日も彼女が掃除をしているところを捕まえて話しかけている。


「彼には元々色々とお世話になってるしな。お金は・・多分要らないだろうから他の方法で・・・。」


「お料理とかいかがでしょうか?甘い物がお好きなようですし、お菓子とか。」


「料理したこと無いけど・・。」


「では肩を揉んであげたりなんてどうでしょう。」


執事のトステルが声をかけてきた。


びっくりした。

まあ、いつも居るのだが、家に溶け込み過ぎて存在を忘れてるんだよね。


「最近お疲れのようですし、肩を揉んだりマッサージしたりとか・・ミレイユ様なら尚更喜ばれるかと思いますよ?」


「そうなのか。それいいかもね。有難うトステルさん。」



****



「ふぅ。」

僕はため息をついた。


「ツカサ様、頑張り過ぎですよ。少し休んでください。」

キャメロンさんがお茶を用意してくれた。

今日は紅茶を入れてくれた。


今は書斎では無く、仕事部屋として父が使っていた別の部屋にいる。


「全く、よく似ていらっしゃる父親に。私そのお仕事教えましたっけ?」


書斎よりも広くて明るいし良いかも。

不思議と気持ちが落ち着いた。

あれ、何で落ち着くのだろう?

ぼくは最近までこの部屋もよく知らなかったというのに。

観葉植物があるからかな?

庭を一望できる大きな窓があるからかな?


「ま、いっか。」


キャメロンさんは父の一番近くで仕事をしていた人だ。

今、ぼくはこの人の仕事の手伝いをしている。


「ぼくが手伝う~って言いだしたときは驚きましたが、無理しないでくださいね。」


実際父が居なくなってから、キャメロンさんが仕事を引き継いでいた。

父は毎日どんな思いでここで仕事をしていたのだろうか。


キャメロンさんの眼鏡の奥の瞳には父がどう映っていたのだろうか。



****



「大きな仕事になりそうなんだ。」


オトベ・レイヤ様はあの日そう仰っていた。

奥様を連れて鉱山を見学なさると。

少し胸騒ぎがしたけれど・・まさかと思った。


しばらくして連絡が入る。

鉱山で事故が起こったと。

レイヤ様と奥様は事故に巻き込まれ亡くなったと。

私はあの時何としても止めなくてはいけなかったのだ。


「いけませんね・・気を抜くと思い出してしまって・・。」


ツカサ様がレイヤ様にそっくりなんですもの。

私の片思いのあの方に。

あの方はもう戻ってこない。

今更後悔したとしても遅いのだ。


「キャメロンさん大丈夫?」


ツカサ様が私を心配して声をかけてきた。

優しいところもレイヤ様そっくりなんだから。

私は精一杯の笑顔を作って見せた。

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