第2話 彼女とコーヒー

ぼくは彼女と目が合った。

吸い込まれそうな青い瞳。

なんて綺麗なのだろう。


いつかは目を覚ますことはわかってはいたのだけど・・・。

あまりの美しさに目を奪われてしまった。


「君が介抱してくれたんだね。ありがとう。で私はどのくらい寝ていたのだろうか?」


ぼくはふと我に返った。


「え、えっと。ここはイルミ村です。寝ていたのは丸一日くらいかな?ぼくが貴方が倒れているのを発見してから・・・。」


「それは・・重たかっただろう?鎧とか剣とかあったから・・・。他の人と一緒に運んでくれたのかな?」


「いえ、ぼく一人で、さすがに持ち上げられないので風の魔法を使いましたが。」


「魔法が使えるのか。凄いな。」


ぐう~


彼女のお腹が鳴った。


「お腹空いたみたいで・・音が・・。」

彼女の頬が赤くなった。


「すぐ用意するんで、待っていてください。」


残っていたパンを焼いて、卵を割って目玉焼きにする。

パンにはバターを塗っておいた。

卵焼きには塩と胡椒をかけた。


彼女は椅子に座る。

ぼくは料理をテーブルに運ぶ。


「コーヒー飲みますか?」


「え?そんな飲み物あるのか・・・。ありがとう、頂こう。」


「パンってこんなに美味しかったっけ?それに固くないし。」


「あー黒パンじゃないですからね。バターとかも付けてありますし。」


「助けてもらってなんだが、君何者なんだ?」


「ぼくはオトベ・ツカサです。少し?お金があるだけの村人ですよ。」


「私はミレイユ・バレッタだ。事情があって遠くから逃げて、倒れたところを介抱してもらったようで・・。」


「村人?貴族じゃないのか?」


ミレイユさんはぼくに詰め寄った。

ウソは言ってない。

元貴族だったかもしれないが、今は多分違うから。


「コーヒーって高価で、貴族の間で最近流行っている飲み物じゃないか。ただの村人が持ってることがおかしい。」


「開発者が両親ですからね。不思議じゃありませんよ。」


「まあ、そういう事にしといてあげる。」


フィルターにコーヒーの粉を入れて熱湯をかけて抽出する。

簡易的なコーヒーの作り方だ。

かぐわしい香りが部屋中に充満する。


「いい香りだな・・・。」


コーヒーの入ったカップをミレイユさんに手渡した。

「熱いから注意してくださいね。」


黒い液体を眺める。

ぼくは少し前まで領主の息子だった。

今は両親が亡くなって元領主の息子だ。

最近まで何事もなく過ごしていたせいか、両親が亡くなったというのも信じられないでいる。

それは悪い夢で、まだどこかで生きているのではないか・・と。


「どうした?落ち込んでいるようだが。」


「・・・あ、いえ最近親が亡くなって、少し思い出してしまって・・。よく両親と飲んでいたので・・・。」



ふわっと柔らかい感触が頬に当たった。

ミレイユさんがぼくを抱きしめていた。


「辛いだろう・・ごめんな。辛いことを思い出させて・・私の事を親だと思ってくれていいから・・・。」


え?

ミレイユさん?

それは少々無理があるような。

どう見ても20歳くらいにしか見えないけど。


ぎゅっと抱きしめられて柔らかくて暖かい・・・少し気持ちが落ち着いてきた。

あれ?何だか恥ずかしくなってきた?なんでだろ。

ぼくは慌てて、ミレイユさんから離れる。


「あれ?大丈夫か?」


「寂しくなったら、またいつでも抱きしめてあげるから。」


ニッと笑うミレイユさん。

気持ちは嬉しいけど・・ぼくは顔が赤くなってしまった。

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