此方彼方と、共に。

ソラノ ヒナ

始まり

 長い冬が訪れる頃、両親は彼方へと旅立った。

 幼く、死が永遠の別れと知らない私を残して。

 それでも、祖父母がいてくれた。

 けれどまた冬が訪れる頃、二人も彼方へと旅立った。

 この時、私は十歳。死というものは理解できていた。


 だから、冬は嫌いだ。

 

 一年の半分も続く真っ白な世界で、何に身を包んでも心はずっと凍ったまま。

 生きているのに、死んでいる。

 それでも、一人で生きていけるようにと仕込まれたすべを使い、生き続けている。


『十六になった時、約束の力が目覚めるの。その時になれば、どうして隠れ住まなければならないのかも、理解できるはずよ』


 祖母がよく話してくれたこと。頭には残っている。けれど、心には響かない。きっと私の心臓が激しく反応することなんて、一生ない。

 それでも、死ねなかった。


 自分で命を絶つのが怖かった。


 だから、誰かに――。


 ***


 寒い。


 布団から飛び出た足を引っ込める。顔も思い出せなくなってしまった両親と、そして祖父母との夢を見た。余韻に浸りたくない。でも、まだ目を開けたくない。


 また、冬が来た。


 昔に比べて寒い時期は短くなった。長い春の後には少しの冬。そのお陰で、蓄えの準備も楽にはなった。それでも一人は大変だ。

 だから、冬の始まりぐらいは寝坊していい。

 そう思った私の耳に、柔らかな声が届いた。


「誕生日おめでとう、エレナ」


 弾かれたように体が跳ねる。ベッドの横に立てかけていた斧と共に。

 そして声がした方向へ振り下ろした。


「エレナ。生まれてきてくれてありがとう」


 斧は不審な男性をすり抜けたのに、彼は私を抱き締めたのだ。

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