まだ見ぬ白女神と悪役の行く末につきまして。


 ◇


「ルーナさん、こっちです。行けそうですか?」

「はい、今運びますね~!」


 手を振るライリーの元へ、魔法を使って石像の腕を浮かす。


 そして胴体の近くまで持って行くと、ライリーが「オッケーです~!」と私に向かっていった。


 バラバラになっていたパーツが、別の魔法師によってくっつけられていく。


 見る見る内に大きな女神様の石像になっていく様を、私は地上から見上げた。


 城下町にあるこの広場は、この国の人々が最も多く行き交う。


 そのど真ん中に聳え立つ女神像は恐らく城の窓からも、わかりやすく見えることだろう。


「なかなか迫力がありますね。これって何ですか?」

「あれ、説明していませんでしたっけ?」


 ライリーは眼鏡をかけ直しながら、同じく石像を見上げた。


「白女神ですよ。ルーナさんは見たことがありますか?」

「えっ?」


 し、白女神ですって……?


 その単語を聞いただけで心臓がバクバクと鳴り始める。いきなり話題にされるとは思わなかった。油断していたな……。


「光の魔法を極めた、最たる存在ですよ。その聖力をたるや、神の賜物そのものだと聞きます。なんでも、どんな怪我や病を癒す力があるとか」


 期待に満ち満ちた声音で説明するライリーに、私は「へ、へえ~……」と白々しく頷いた。


「どんなに優れた魔法師でも、削れた生命を戻すことはできないですからね。白女神様は世界の希望の星ですから、国の安寧を願う際の催しには、こうして白女神様を模した石像が建てられるのです。……と言っても、どういった方が白女神なのか、今の時代では誰も把握はされてないのですが……」

「で、あれば……私が見たことないというのは必然的におわかりになるのでは……」

「ルーナさんは魔塔に来る以前、様々な国を転々としていたと言っていたので、もしかしたらと思ったのです」

「あ~……」


 言ったような。言ってないような。割と適当なことを言った気がするな。


 だって面接って言うのは、いかにそれらしいことを言うかが定石みたいなところがある。正確には、幼い頃に奴隷商人にあちこちたらい回しにされた、を言い換えただけだ。


「それにルーナさんは闇を司る魔法を得意とされていますから、その相反する場所にある光の魔法にはそれなりに明るそうだなと……」

「いやいや、私はそんなに勤勉じゃないですから!」


 なんて鋭いのか。こんなにのほほんとしているように見えて、油断も隙もない。ライリーも伊達に王室魔法師として選ばれた人じゃないな……。


「と、とにかくあれが白女神様だってことはわかりました! ちなみに白女神様がこの時代に現れたらどうなるのでしょう? 私が調べたところによると、神殿に行くことになるとかなんとか……」

「そうですね、聖女様として、神殿に迎えられるとは思いますが……もしかしたら王城という可能性もありそうです」

「な、何故でしょう」


 ひとまず訊ねると、ライリーはきょろきょろとしながら、「ここだけの話」と小声で続けた。


「なんでも白女神様の癒しの力には特別な力があると国王陛下をはじめ、様々な方々が噂されていますから。恐らく国を挙げて歓迎されると思います。その場合、白女神様から恩恵を受けるため、後ろ盾になろうとするかと。うちの魔塔だって名乗りを挙げると思いますよ」

「特別な力ね……」


 恐らくそれをルーナは『不老不死』の力と捉えた。実際にはただの治癒魔法で、不老はまだしも不死に関して効果があるかは不明瞭である。


 それなのにルーナは彼女の光魔法にこだわり、最終的には悪役として成敗されてしまった。なんとも不憫な悪役である。


「ルーナさん的にはどう思いますか?」

「そうですね。……まあ、普通に神殿で匿うのが安牌では?」

「えっ!」


 だって王城に来られてルスエルたちと顔を合わせられても困るし、魔塔に来て実権でも握られたら面倒臭い。


「し、白女神様ですよ? 魔塔に入ってくださったら、とか一目でもいいからお会いしたい、とかないんですか?」

「いえ別に……。私、他人の魔法に興味ありませんし……」


 考えるふりをする。ここで他人の魔力に興味ないアピールをしておけば、今度ヒロインに何かあった時、真っ先に疑われないかもしれない。


 今の内からその種を蒔いておけば、きっとライリーのような人がいざという時に証言してくれるはずだ。


「すごいです……やはり歴代最年少で王室魔法師になった方は違いますね。僕は一度でいいからお会いしてみたいなと思うのに……」

「そういうものですか」

「そういうものですよ! 逆にルーナさんのようなお方は珍しいと思います」

「あはは……ところで石像の設置が終わったらどうしましょう? 他にも何かすることってありましたか?」

「あ、いいえ。本日はもう上がってもらって大丈夫ですよ」


「お手伝いありがとうございました」とライリーに言われて、「こちらこそ、ありがとうございました〜!」とルンルンで踵を返す。


 白女神の話をされた時は気分が落ちたけど、早めに仕事が終わったんだからどうだっていいか! 


 やったぞ〜! 今日はいっぱい時間があるから街のケーキ屋さんに寄って〜、などと考えながらスキップをしかけた瞬間、「あ、ルーナさん!」とライリーが付け足した。


「すみません、ソルフィナ様からの伝言がありました! 仕事が終わり次第、ルーナさんにぜひ部屋に来るように、とのことです」


 すっと上がりかけた足を地面に戻して、「……そうですか」と影を落としながら私は頷いた。


 うっ、久しぶりに早く帰れると思っていたのに。


 ……ああ、もう仕方ない、それもこれもより良き未来のため。健やかな人生を歩むため!


 頭の中で描いていた早く帰ったらやりたいことリストを粉々にしながら「わかりました、王城に着いたらすぐに向かいます」と笑顔で答えておいた。




 

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