原作の強制力を考えていく件につきまして。
「ライリー様! 魔塔主様が祭りに参加できなくさせる方法とかないんですか!?」
「えっ、ど、どういう意味でしょう?」
「ああ、どうしたら……いっそ、どこかででかい事件を起こせば、月星祭りを中止にできたりしませんかね……」
「ルーナさん、今とても物騒なことを言っている自覚がありますか……?」
どうにか中止にできないものか。
うーんと考えながら、腕を組んでいると扉の方から少しだけ物音がした。
「……おい、なんか静かじゃないか?」
「……本当だ。月星祭りのこと、まだ正確に聞けていないのに……」
「ユル、お前の魔法でどうにか中の音が聞こえるようにしてくれよ」
「ダメです。この書斎には、防壁魔法がかけられているので……これ以上は……」
「は~まじか」
ライリーと顔を合わせて、私はそっと扉に近づいた。
「もしかしたら、もう話し合いは終わったのかも……」
「え~? それならウニ先生、とっとと出てきそうだけどな。あの人、会議とか嫌いじゃん」
「え、そうなんですか?」
「まあ、すごくサボりたがってるイメージはありますね」
ルスエル、ソルフィナ、ユルがそれぞれ会話をしている。
全く失礼な、と思うも、「確かに……」と言いたげなライリーと目が合ったので、「ライリー様まで何を言うんですか!」と口パクで伝えておいた。
ふん、言いたい放題なんだから。少し悪戯でもしてやるか。
扉に手を当てると、ライリーが「ルーナさん? 何をされて……」と続けたので、口の前で人差し指を立てた。
「ま。いいや、とりあえず、もう一度耳を近づけて……」
ソルフィナがそう言いながら、扉に顔を近づけた瞬間。
扉の表面から、目玉がぎょろりと飛び出した。
「うわぁ!?」
「え、どうしたんですか。お兄さ……わっ! なんだこの目は!」
腰を抜かしたソルフィナの背中側に回るルスエル。
そしてそんな二人の隣で、じっとこちらを見るユルが恐る恐る私の名前を呼んだ。
「……ルーナ先生?」
「ふふっ、正解。さすがです、ユル様」
にゅっと今度は扉から唇が突き出ると、彼らの顔がますます引き攣った。
「く、唇までついてる! なんだこの気持ち悪い扉は!」
「おえっ! きもすぎ!」
あまりに失礼な叫び声が聞こえて、がちゃっと扉を開けると、ルスエルもソルフィナもドン引いた顔でこちらを見上げていた。
「お二人とも、なんてことを言うんですか! これは最近編み出した、貼付魔法ですよ? 3秒だけしか効果時間はありませんけど」
「そんなきもい魔法で、人を驚かせて楽しいのかよ!」
「あらまあ。ソルフィナ様、人はですね? 驚いている姿を見て愉悦に浸る生き物なんですよ? 故に、とっっっても楽しいです」
「悪党がすぎる! お前、悪魔魔女だろ!」
は、しまった。悪魔魔女と認識されてしまうとそれはそれでよくない。
せっかく今まで作り上げてきた、ルーナ・オルドリッジ=無害の方程式が……!
あはは、と軽く笑って、こほんと、ひとつ咳払いをした。
「悪魔魔女はさておいて……皆さんはこんなところで何をしてたんですか?」
「えっ、あ……それは……」
もじもじとするルスエルに、「祭りの詳細を聞きにきた」と堂々とした口調でソルフィナが続けた。
……床に腰をつけたままだけど。
「なるほど?」
「月星祭りといえば、五年に一度。国民や陛下に俺たちが魔法を披露する絶好の機会だろ? だから詳細が知りたい」
案外正直に答えるんだな、と思っていれば、「ルーナ先生」とユルが口を開いた。
「わたしたちが、陛下たちに謁見して魔法を披露する機会はありますか」
「そうですね、もちろんそういった時間は取られると思いますよ」
そう答えると、ソルフィナやルスエルは少し表情を明るくした。
この二人は親に会える機会がそうそうないから、嬉しそうにするのも仕方ないか。
特にソルフィナは、出生のこともあって少しでも自身の成長をアピールしたい場でもあるだろう。
……そう思うと、月星祭りを開催してあげたくもなる。
正直、原作の強制力についてはまだ把握しきれてないところもあるし……。
まあ、多少実験的な意味で、この子たちが国王陛下たちに上手くアピールできるように手伝ってあげても……。
ルスエルたちを見回していると、ユルが気まずそうな顔をして俯いていた。
「ユル様? どうかしましたか?」
「あ、いや……」
と、言いつつも、やっぱりその表情が強張っている。
ルスエルやソルフィナと違って、ユルにとってはそれほど待ち望んだ催しではないかもしれない。
公爵は、この月星祭りで魔石や魔獣関連の情報開示や見世物をする。その際に、改良された魔獣を披露するわけだけど……。
ユルはその際に、その見世物を手伝いをしなくてはならないのだ。
王室を立てて、父親や貴族たちの期待に応えていく。まだ十にもなってない子どもにとって、あまりに重圧だろう。
大体、自身の家紋を背負わせるのは早すぎるとは思わないのか。本当に、全くもって理解したくない世界だ。
「ところで、皆さん。課題はもう終わりましたか?」
「は、はい。終わりました!」
ルスエルが行儀よく返事をする。
すると、床に座ったままのソルフィナが少しかったるそうにしながら「あんな課題、何の意味があるわけ」と肩を上げた。
「魔法陣の模写とか、あんなの見て覚えればいいじゃん」
「ソルフィナ様、いいですか? 魔法陣は一本一本の線にきちんと意味があるんですよ。少しでも違えたら全く意味が変わります」
「そうですね、例えば」と指を立てて、こう答えた。
「私がお腹すいた、という言葉と、私もお腹すいた、という言葉では意味が変わるではありませんか」
「例え悪すぎ。どんだけ腹減ってんの? そんなんだから、先生っていつまで経っても痩せ……」
せせら笑うソルフィナの前に向かい、「え、なに……わっ」とその身体を少し持ち上げるようにして立たせた。
「そういうソルフィナ様も、随分と大きくなりましたね。ソルフィナ様を抱き上げるのはもう無理かもしれません」
「っ、やめろ! 口で言って立たせればいいだろ! 子ども扱いするな!」
頬を少し赤くして、すぐに手を振り払ったソルフィナに「ず、ずるい……」と言いかけたルスエルが、「いや違う!」と首を振った。
「いきなり触るなんて無礼だ! 先生はそういうところがある!」
「だ、だよな! しかも扱い雑だし、人を人形とでも思ってるのか!」
「人形……まあ、そうですね。言われてみれば、ぬいぐるみのような愛らしさはあるかもしれません」
ほっぺたは相変わらずもちもちしていそうだし。
「「なっ!」」
声を揃えた二人が、みるみる眉を吊り上げていく。
「無礼だぞ! 俺たちは同年代でも大きいと大人たちは言うのに!」
「くっそ、見てろよ……。今にお前よりも大きくなって、こっちが俵みたいに担いでやるからな!」
ぎゃあぎゃあとうるさい二人を「そうですね、それは楽しみにしております」と笑顔で流していれば、「る、ルーナさん……あまり怒らせては……」とライリーがあわあわとしていた。
「とはいえ、馬鹿にされたと感じるなら勉強は大事です。魔法陣の模写だって馬鹿に出来ません。知識をつけ、力をつければ、人に敬われ、自然と味方が増えていくものです。お二人とも、月星祭りで、力を見てほしい方々がいるのでしょう?」
「……まあ」
「……それはそうだけど」
不満そうにしつつも素直に頷いた二人に、ライリーは驚いたように目を丸くしていた。
「わかっているならいいんですよ。さ! それでは楽しい授業を始めましょうか」
「ち、ちなみに先生、今日は何の授業をするんですか? 俺、飛行術やりたいです!」
「なあ、俺、さっきのきもい魔法の仕方知りたいかも!」
歩き出すと、ルスエルとソルフィナが左右から声をかけてくる。
そんな彼らに「そうですねえ」と呟きながら、私は未だ立ち止まったままの彼へと振り返った。
「ユル様」
びく、と肩を揺らして、その目を私へと向ける。
「そんなに不安にならずとも、公爵様なんて、ユル様の魔法であっと驚かせればいいんですよ」
「……」
「そしてその術を、私が教えて差し上げますから」
手を差し出すようにして、こちらへ来るように促せば。
「だから、安心してついてきてください」
彼はこくりと頷いて、こちらへ駆け寄ってきた。
月星祭りは中止させたいけど、楽しみにしている子たちがいるなら仕方ない。
この子たちをできるだけ傷つけないように、どれだけ原作に抗えるか。
こっちはこっちで実験させてもらおう。
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