奴隷商人の百鬼夜行 〜職業を奴隷商人と認定され、クラスから軽蔑されながら左遷されると最強パーティを作ってしまいました。ハッピーエンド目指してじっくり悪役ライフ〜
べろちえ
クラスメイトとの因縁
第一話 召喚されすぐに追放
俺は小嶋忠正、田舎に住むしがない高校生だ。
学校での俺はずっと寝ており、授業はろくに聞いていなかった。まあ実際、俺にとっては必要のない授業だ。こんなもん、勉強しなくても適当にニートしてたら生きていけるわけだから。そしていつもは家でゲームやアニメを見て過ごしていた。
就職はどうすんの?
なんて先生にいつも言われているが、俺の家は農家だ。つまり、家業を継げば何とかなるわけだから就職できなくてもセーフってこと。
他にいろいろグチグチ言われるけどそんなん無視無視!俺は一生社会に出ません!
と思っていたある日、いつも通りに五限目開始のチャイムが鳴ると、俺のいるクラスに白い光が包み込み、そこにいた全ての生徒は為す術なく吸い込まれていった。
俺は一度身の安全を確保して
とりあえず家族に連絡して安否を確認――
とでもカッコつけたことを考えていたが、あたりの光景を見てそれらを諦めることにした。だって、俺がいたのはド田舎の日本であって、こんなヨーロッパ系のアトラクション施設なんて全くない場所だから、俺は酒でも飲んだのだろうかなんでこんな変な場所に来てしまったのだろう。
俺は外が気になって今いる場所の窓から外を覗いた。そこにはアニメでよく見るようなヨーロッパって感じの街が広がっていた。
あれ、俺って過去にタイムスリップでもしたのか?とでも一瞬思ったが、大昔の日本にヨーロッパの建物なんてあるわけないから、それはありえない。と思い現実に戻る。
「おお、ようやく成功したぞ!少年少女たちよ、ようこそ神に愛されし国、パサイセン王国へ!」
その声がした方を見ると部屋の奥の方には魔法陣の上に立っている、魔法使いのフードを身に纏わせた白い髭まみれのおじさんがいた。
「な、なんだこれ……」
「ここってどこなのよ」
「意味がわかんねぇ」
他に転移してきたクラスメイトは状況を理解できず、友達同士と互いに意見交換をしていた。
俺か?もちろん俺にはそんなもんいない。
でも俺が見たこの状況からして、ここで何が起きたのかと考えるなら、異世界転生っていうやつなのだろうとは推測できる。
他の奴らが状況を把握していないのを見ておじさんは語る。
「皆、いきなり呼んですまないのう。手短に説明すると、ここは君たちの世界とは違う世界じゃ。呼んだ理由として、今この世界では魔王の復活により滅ぼされるという予言があり、その日付がもう数ヶ月後と近づいておる。それで君たちに助けて欲しくてここに呼んだのじゃ。」
まだ話の内容を信じられないとポカーンっとするクラスメイトを見ておじさんは手を上にかざして詠唱をする。
「ステータスよ、開示したまえ!」
すると、その手から青く光るパネルのようなものが現れ、そこには――
名前【フィセップ・マルノイノサ】
年齢【89】
種族【ドワーフ】
性別【男】
スキル【魔力倍増】
適性職【魔術師】
レベル【80】
と書かれた文字が現れた。
「これを見れば、わかるかね?」
そのパネルを見てクラスメイトはようやく理解する。
「すげえな!これって異世界なのか!」
「なら俺らもう勉強する必要がねーな!」
クラスメイトから歓喜の声が聞こえ、そして今の現状を理解したものから、我先にその方法を聞こうとする。
「おい、それってどうやってやるんだ?」
「やり方を教えてくれ、おじさん」
「急ぐな急ぐな、皆ワシとおなじように詠唱をしてステータスを開示するんだ。そして皆に一つお願いがある、魔王を倒すために、パサイセン王国へ手を貸してほしい」
「もちろんです!僕たちに任せてください!」
「当たり前っすよ!魔王なんてちょちょいのちょいっす!」
退屈な日々に舞い降りた奇跡へクラスメイトは皆、大喜びしながら魔術師と同じ詠唱をしてステータスを開示する。
そして俺に現れたのは――
名前【小嶋忠正】
年齢【18】
種族【異世界】
性別【男】
スキル【服従】
適性職【奴隷商人】
レベル【0】
と書かれたパネルであった。
「よっしゃー!俺剣聖が出たわ!」
「まじ?俺は大魔導師」
「私も大魔導師でたー」
と様々な歓声がわき起こる中、俺の役職は奴隷商人だった。
待て、奴隷商人ってどういう職業だよ。
いや字面からしてわかるが、これは魔王討伐に必要な職業なのか?
クラスメイト全員の職業を把握するために学級委員であり、【勇者】を引いたクラスの中でも正義感の強いた仲谷が来て、俺のパネルを確認される。
「え?小嶋お前奴隷商人ってなんだよ!?人身売買の職業なんてなるもんじゃねーよ」
「知らないよ。だってこれを開いたらこう出たんだぜ」
「まあでもお前は犯罪に手を出してたりしてそうだからな。間違っても俺らを誘拐とかするんじゃねーぞ」
「そんなことしねーよ」
「いや君はするね」
俺が奴隷商人だという話はすぐクラス中に伝わり、この場にいるクラスメイトからの目線が少しずつ厳しくなっていくのを感じる。
「おいおい、あの小嶋だけがおかしな職業で、しかも人を売るような奴隷商人らしいぞ」
「うわマジか。そんな人を売買する奴と関わりたくねえ」
「やっぱりずっと一人でいるからそういう変な思想もってるんだね……」
「でもお前ら、小嶋は別にいてもいなくても変わらねーし、奴隷商人になるならなおさら、今後積極的に関わる必要がなくなるからいいけどな!」
「それはそうだ。あいつは一人が好きだからな、ほら今もあそこに一人でいるだろ」
クラス中から不快な笑いが聞こえる。
この職業は起きたらなっていた職業なのにと思いながら、気分が悪くなった俺は彼らに関わらないように窓際で一人佇む。
「そういえばお前、奴隷商人なんだろ?スキルってなんなんだ?」
からかっていたクラスメイトの一人である口田が現れる。
「服従だ」
「うっわ、すげーやばい名前だな。そういえばお前ずっと一人で変なことやってるもんな、この前何やってたんだっけ?世界の悪人とか独裁者について調べてたよな?そんな調べたくなるようなお前の思想がこえ~よ、とち狂っても俺を服従させないでくれよ」
「いや、クラスメイトに興味ないからそんなことしないよ」
「じゃあこの世界の住人にはするってことか?独裁国家こえ~」
「いやいやそういうことでもなくてさ……」
この口田はどこまで揚げ足取りしてくるんだ。
「よ、独裁者小嶋!俺等に命令してくれ!」
「聞いた話だと仲谷、お前にブチギレしてるらしいぞ!」
「そうか。勝手にしてくれ」
そうやって色んな人のからかいに応対していると、やがてこの宮殿の使用人が料理をたくさん乗せたワゴンを押して部屋の中に入ってきた。
「これからこの国の様々な美食が届けられるので、皆様方は席についてぜひお楽しみください」
他の奴らはそれを見て、席についてさっそく届けられた食事を食べ始めた。そして俺も食事をしようと席につこうとすると、背中をトントンと叩かれる。
「奴隷商人くん、話があるから外に出てくれ。食事はなしだ」
振り返れば先程の魔法使いのおじさん、フィリップがそこに立っていた。
(おいおい、俺には食事すら食わせないのかよ)
そう思いながら渋々食べようと取った食器をおいて、フィリップの指示に従うことにした。
部屋を出たあと、おじさんは俺を見て
「実は先程、我々の王族が新たな決断をした。君たちの上層部との会議の末、君には魔王討伐に対する素質は存在せず、そしてクラスメイトの判断により危険分子と推定。それによりお主はこの魔王討伐隊より追放処分となる」
(俺が微妙な職業だからってこんなずさんな扱いをされるのかよ)
少し急すぎる展開に俺の脳は追いつかず、理解ができなかった。
「そうか。そんな討伐隊にすら入れない俺はこれからどうすればいいんだ?」
「そんな無職のお前に、職業を見つけてやった。まず奴隷市場へ向かわせ、そこから奴隷商人らしい余生を過ごしてもらうつもりじゃ。ほれ、ついてこい」
フィリップは身に振りかかった火の粉を今すぐに払いたいようで足早に歩き始めた。
「そうか、なら俺から一つ質問がある。おじさん、なんで俺とクラスメイトを召喚したんだ?」
「それは我々が考えた予言による魔王討伐への対抗手段がそれだっただけじゃ。悲しいことに我が国の国力はそこまでなのに、予言によれば魔王に一番先に狙われるそうなんじゃよ。まあ、この話自体、お主とってあまり関係ない話になるじゃろうが」
このおじさんは一言が多いな、奴隷商人の俺がそんなに嫌いなのか?
「へえ。じゃあ奴隷商人は何するんですか?あと、俺には奴隷なんていないですよ」
「奴隷商人の仕事?それは文字通り、ワシら貴族ができない下民のする汚い仕事である奴隷の売買するんじゃよ。うむ、もちろん君に渡す奴隷なんてもんは居ないから、もっと酷い状態である管理者が居なくなった奴隷たちの住む街で探すしかないのう。そこには奴隷として扱えなくなった訳ありが多いから気をつけるんじゃぞ、ほっほっほ」
「だがそんな危険な場所に行って、俺なんかが経営できるのか?」
「おう、わしとしては君の生死なんて知ったこっちゃないから勝手にするんじゃよ。数十年前に使われた古い地図と鍵を渡しておくからせいぜいそこにいる元奴隷のお偉いさんにでも媚びを売るんじゃな。ほれ、魔法を打つから目を閉じろ。次の瞬間には既にそこじゃ」
おじさんに連れられて、誰もいない個室に到着したあとに、俺を魔術陣の上に立たせおじさんは魔法をかけた。
「空間の精霊よ、この男を私の思う場所へ転送せよ。魔法陣・
魔法陣から光が溢れ出し、それが体を覆うと同時に、俺はその奴隷たちの街であろう場所の前に到着した。
俺はおじさんから貰った最後の命綱である鍵と地図を握って、魔王討伐とは無縁な新たな生活へ向けての第一歩をまず踏み出すことにした。
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