再会Ⅵ
妖精庭園の澄んだ空気が急に重くなる。
空間に亀裂が入るような乾いた音と共に、マリーの周囲に風が吹き荒れた。
「思い、出した……!」
「マリー様」
「思い出したよ。全部……。あの時に一緒にいた子じゃんか。何で今まで忘れてたんだ!?」
ルーカス学園長は伯爵と懇意にしていて、今でも家族ぐるみの付き合いをしている。それがもし、もっと前からのものであれば、ルーカスの子供や孫とも同じように出会う場面がマリーにあってもおかしくないだろう。
マリーの目は見開かれ、クロウの手の先にいるソフィに注がれていた。
「確かあれだ。城のパーティーか何かで遊んでいた時だ。急に大きな音がしたと思ったら――――」
「マリー様。それ以上はお辞めください。そのことを知らない者もいますので」
「あ、あぁ、そうか。城であんなことがあったなんて、そりゃ言える話じゃないよな。そうすると、あたしが忘れていたのは……」
「……ビクトリア様の魔法です。あの場にいた子供の多くが、その魔法を受けております」
メリッサの言葉を聞いて納得がいったのか、マリーは悲しみの表情よりもすっきりしたというような面持ちだった。
そんな様子を見て、クロウは呆れとも安堵とも取れないため息をつきながら、ティターニアへと話を振る。
「……ということで、この子の身元はハッキリしているわけで、何の因果かわからないが、その子の友人だ。そちらの言う、どこの誰かということを判明させたんだ。帰るべき場所がある少女をここに閉じ込めておくのはやめないか?」
「……その子をどうするつもりですか?」
ティターニアはクロウを睨む。
ハシシという男だけでなく、他の者も狙う少女。何か不穏な気配を感じ取ったのだろう。
「さぁな。俺も何でも知っているわけじゃないんだ。少なくとも、秘密の園の連中に渡すよりはマシだろうな」
「あなたもハシシと同様に再生能力を持っていますね。あなたも秘密の園の幹部で、あの男と争奪戦をしていた、ということはありませんか?」
その言葉に全員の動きが止まった。
秘密の楽園などという御伽噺染みた場所が本当にあるというならば、何故、それをクロウが知っているのだろうか。本当にそんなものが存在するのならば、既に被害が出ている以上、国が既に動くような事態に発展していてもおかしくない。
即ち、それを知るクロウもまた秘密の園に戻りたいと願う「ハシシ」の一人なのではないのか。
「ふむ、その返しをされると困ってしまうな」
「だから、私の返答はいいえ、です。少なくともあなたにも引き渡すのは危険だと思います」
それを聞いて、クロウは唐突に笑いだした。腹を抱えるでも、天を仰ぐでもなく、軽く肩を揺らして堪える様な笑いだ。
「な、何がおかしいのですか?」
「いや、危険だというのならば、
ミシリ、と二人の間で空間が軋む。
「大妖精になってまだ短いというのに、何故、そこまでの知能を有している? 理路整然とこちらの話を理解し会話できる?」
「何の、話ですか?」
「お前も薄々気づいているんだろう?」
ティターニアの表情が強張る。
いつの間にか周りをついて来ていたはずの妖精たちもどこかへと消えていた。
「保護なんて言っているが、
「そ、れは……」
クロウに向けられていた視線がティターニアへと向けられる。
もうユーキには誰が敵で、誰が味方かわからなくなってしまっていた。
「別に不思議なことではない。生き物なんて、自分に有益か害があるかで判断する。そういうものだろう?」
「私は、そんな風に思ってなんか……」
「では、この少女を解放すると良い。それで、お前の無実は証明されるだろう」
クロウの冷ややかな言葉がティターニアへと突き刺さった。
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