再会Ⅲ
頸動脈が切り裂かれれば、それはほとんどの場合が死につながる。治癒魔法を使えば、塞ぐことも可能かもしれないが、戦闘の継続に支障をきたすのは明白だ。一時的にとはいえ、ある程度の血液を失えば大なり小なり影響が出ることは想像ができる。
また魔法使いとしても魔力が通る架空神経とは別に肉体自身にも魔力は存在している。吸血鬼が血を介して魔力を補充する様に、場合によっては杖などを媒介にするよりも強力な魔力源として扱うこともある。それ故にクロウの魔法も僅かながらに威力を抑えたり、発動自体を躊躇わせることができる。
アンディやフェイはこれを好機と取ったが、その一方で何人かは生きた人間の首から血が噴き出る様子に目を背けた。魔物や死んだ人間とは違ったためか、まだ耐性ができていなかったのかもしれない。
「うっ……」
もし、自分が同じ立場だったらと想像してしまうと思わず首筋にヒヤリとしたものが触れる錯覚に陥る。慌てて首を抑えるが、そこには何の傷もない温かい肌があるだけだ。
フランは恐怖に目を見開きながらも、一歩前に進む。
「なん、で――――」
ナイフを持ち直し、メリッサは血を振り払う。黒い液体が地面と草花へとかかる。遅れてクロウから噴き出て宙を舞った血液も降り注いだ。
ゆらりとクロウの体が揺れ、何とかガードしようとしていた手がだらりと垂れ下がる。
「これも、マリー様の為――――」
「――――敵から目を離すとは舐められたものだ」
「――――っ!?」
メリッサの心臓が跳ねた。
反射的に呼吸が止まるが、そのまま一気にその場を飛び退る。不意打ちを覚悟していたが、痛みはおろか衝撃の一つもやっては来なかった。
「……あなた、まさか!?」
ティターニアが絶句しながらも、何とか声を絞り出す。
全員が何事かと考えるよりも早く、ティターニアが恐れていたことが目の前で起こる。
飛び散っていた黒い血が、まるで逆再生でもするかのようにクロウの体へと戻っていったのだ。
「再生、能力か!?」
ユーキは肝心なことを忘れていたことに内心で舌打ちした。
初めてクロウと戦った時に斬り落としたはずの右腕は、その翌日にはくっついていたはずだ。気付いていれば、何か他の手を打つことができたにも関わらず、そのチャンスを逃してしまった。
「(いや、待てよ? ハシシと戦う時、クロウの仮面には赤い血が付いていたはずだ、その後もしばらくは流れていたようだし、再生できない攻撃もあるってことだよな……?)」
ユーキがクロウに手傷を負わせるきっかけを見つけ出そうとする中、ティターニアが叫ぶ。
その声はどこか震えており、その瞳はどこか悲しみで泣きだしそうにも見えた。
「まさか、あなたが失ったものは……!」
「おっと、ティターニア。それ以上、俺のことを話してみろ。その首を叩き落すに留まらず、この空間全てを灰燼に帰してやる。黙っていれば、何もしないでおいてやる。わかったか?」
「――――は、はいっ!」
クロウの警告と共にティータニアへととんでもない魔力の圧がかかる。肌が痺れて麻痺したような感覚に驚いたにティターニアは思わず返事をしてしまった。
それと同時にティターニアの体が白いオーラで発光する。
「これは強制契約魔法か」
奇しくもクロウが使ったのはウンディーネに使った方法と同じだ。威圧と脅迫で優位に立ち、知らぬ間に契約魔法を発動させて順守させる。逆に言えばティターニアの場合は約束さえ守れば、脅しの内容をクロウが行うことはできなくなる。故に命と妖精庭園は守られる、という風にとることもできた。
「契約魔法と言えば、
サクラが思わず唸ってしまう程の手際の良さ。この瞬間に、先程の流れを思い出してみても、どこで用意していたのかがわからないほどだ。
書面による条件の細かい設定や後で意見を覆せないようにするための複製の準備などクリアしなければならないものは幾つもある。それをクロウは一切している様子がなかった。
下手をすれば、迂闊な一言で契約を結ばされてしまう可能性すらあるのだ。全員のクロウに対する警戒度が更に跳ね上がった。
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