追撃Ⅶ
一体フランはどう答えるつもりなのか。全員の注目が集まる中、おもむろに右手を持ち上げると、首にかかっているネックレスの黒い部分へ手をかけた。
「――――何をするつもりだ」
空気が震え、土と共に草花が宙に舞う。
一瞬にしてクロウは間合いを詰めて、フランの右手首を掴んでいた。
「他の皆さんはどうか知りませんが、私はあなたを信用しています」
フランは驚くことも慌てることもなく、そっとネックレスから手を離し、左手をクロウの手の甲に添えた。
「あなたは、私を助けてくれた。それだけは覚えています」
「……あの時の記憶が残っていたか」
「はい。私たち家族の悲劇が始まったあの日。それを悪夢で見ながら助けを呼んだ時、確かにあなたの声を聞きました。忘れるはずがありません」
クロウがここに来て初めて本気の動揺を見せた。いくら吸血鬼の真祖とはいえ、力をほとんど入れていない今なら振りほどくことは簡単だっただろう。だが、その場から動こうとすらしない。
フランが暴走していたときに取り押さえ、魔法をかけたのはクロウだ。フランがどういう状態だったかは、間近で観察でき、魔法を使用した本人が一番よくわかっている。彼女が、そこまで覚えていられるはずがない、と。
「だから教えてください。あなたが少女を本当に保護するというのなら、他の人は信じなくても私は信じます。たとえ――――」
フランは振り返ると杖を抜き放った。
その行動に頭が追い付く間もなく、衝撃の言葉が放たれる。
「――――仲間と敵対することになっても」
「本気か、フラン」
「えぇ、皆さんに命を助けられたのはわかっています。ですが、同時にクロウさんに助けていただいたのも事実です。それに私の父も彼の所にいて生きているのなら……」
「それはフランの勝手な想像だ。大体、そいつは和の国で暗殺未遂の罪で追われているんだぞ!?」
マリーが激高して、フランを睨む。
それに真っ向から対峙して、フランは頷いた。
「それはそれ、これはこれです。クロウさんが和の国で何をしていたかは知りませんが、少なくとも、私は身を以て助けられたという事実があります。受けた恩は返すもの、違いますか?」
言いたいことは痛いほどわかる。だが、それをこの場面に持ってくるのは筋違いだ。マリーは声を大にして叫びたかったが、フランの目から意思を曲げないであろうことを察してしまった。
「フラン。あなたは今、伯爵の温情の上で生かされている身、あなたに自由は、ない」
そんなマリーの横からアイリスが進み出て杖を向ける。
既に魔力は杖から漏れ出て、いつでも魔法を使えるような――――というより、魔法の発動を無理やり抑えているような――――状態だ。一触即発の雰囲気に、サクラが間に割って入りマリーとアイリスを見つめる。
「二人とも落ち着いて、私たちが争ってどうするの? 誰とも争うのじゃなくて、クロウさんに話を聞くのが目的だったでしょう?」
「そうだな。今のフランの言葉と行動は少し行き過ぎたものがあったけど、それだけの覚悟があるってことだ。本気で俺たちと争いたいわけじゃないだろう?」
ユーキも進み出てサクラと背中合わせになるように、フランとクロウに相対した。
「(この二人を相手に争うのは自殺行為だ……。それだけは避けないといけない……)」
魔眼でわかっているのは、この場において輝きが最も大きいのがフランとティターニアだ。上手いことティターニアがフランを抑えることができたとしても、確実にクロウにはこの人数では勝てる気がしない。本当に戦いが始まれば一方的なワンサイドゲームだ。
フランがこのような行動に出るとわかっていたならば、他にも手はあったかもしれないと考えてしまうが後の祭り。
アンディも剣こそ抜いてはいるものの、難しい戦況に苦虫を噛み潰した顔で成り行きを見守っている。誰かがこれ以上下手に動けば、最悪の場合も想定される。それだけは避けなければならないと思考を巡らせるが、この状況を打破しようと動いたのは、渦中にいたクロウだった。
「そこまで言うなら仕方ない。ただし、俺は先に言っておくぞ。世の中には知らないままの方がいいことも有る。忘れておいた方がいいことだってある。それでも知る覚悟があるか、だ。――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます