共闘Ⅶ
二人が駆けだしたのを見て、ユーキのガンドが二発放たれた。
一発は顔面に、もう一発は当たりやすい胴体に向かう。運の良いことにどちらも命中したばかりか、出血の止まっていた脇腹に当たり、再び血が流れだした。
笑みを浮かべる男も流石に表情が引き攣り始める。それでも呂律の回らない下卑た笑い声は続いていた。
「くっそ、アイツ、これを顔面に喰らっても平気なのか!?」
ミスリル原石すら穿つガンド。今のユーキにはそれほどの威力が出せないとしても、ここにいるメンバーの魔法に勝らずとも劣らない。せめて目くらましになればいいと思って撃ったのが仇になったようで、知らず知らずの内に自分でブレーキをかけていたようだ。
「こうなったら、マリー、サクラ。足止めするよ! 規模は小さくていいから下半身を封じて! マリーは左足から、サクラは右足から。あたしは足りないところを補う!」
クレアの言葉に二人は頷いて、詠唱を始める。使う魔法はアイリスがアレンジした捕縛魔法。
「「『地に眠る鼓動を以て、その意を示せ。すべてを閉じ込める、巨石の墓標よ』」」
対ゴーレム戦で使われた魔法だったが、今回はそこまで大規模に展開することはない。必要なのは強度と質量。可能な限り硬く、重く。そのイメージと共に魔力を注ぎ込む。
すると男の両足をトラバサミのように岩が挟みこむ。さらにそこへクレアが追加で下半身全体を抑え込むように追加の捕縛魔法を完成させた。
「うぎぃぃぃぃっ!!」
流石に二重、三重に掛けられた全力の捕縛魔法。簡単には抜け出せない。それでも足に力を入れて動かそうとするだけで罅が入っていく。
「はぁっ、はぁっ。アレでも、まだ足りないの?」
絶望的な表情を浮かべるサクラ。
そんな彼女の瞳に男の拳を振り上げる姿が映る。止まった状態からの脚力だけでは破壊できないと判断したのだろう。拳で拘束具となっている岩を叩き割るつもりだ。
「させません!」
ここで動いたのがティターニアだ。至る所から植物の蔦が男の腕に巻き付き、その動きを阻害する。それだけではない。どこかに飛び去ったはずのフェアリービーが再び男の両目に向かって針を突き刺そうと向かって行った。
どんなに頑丈な体を持とうとも鍛えられない場所がある。反射的に目を瞑ってしまうのは、男がまだ人間という枠を出ていないからに違いない。
「これも、オマケ」
そこにアイリスがお得意の水の操作で顔を覆い呼吸を阻害する。しかも、顔全体を覆うのではなく、鼻から下を見事に塞ぎ、目や耳という蜂の恐怖を感じる器官だけは残している。
「オーウェンの技を見てから、ずっと練習してた。量は負けるかもだけど、正確性なら私が、上」
少し自慢気なアイリスだったが、表情に余裕は無い。遠くから動く顔の動きを予測して水を操っているのだ。それを可能とするためには尋常じゃない集中力がいることだろう。
しかし、これで呼吸の阻害、身体の拘束という二つの大きなアドバンテージを得た。それを見て月の八咫烏がスピードを上げる。
「直前まで俺が前に出て不測の事態に対処する。俺が前を開けたら、思いきり殴り抜け」
「ほ、本当に私で行けるんですか?」
「行ける、というかやらなくてどうする。アイツはお前の伯父を騙してグールに変えた張本人だぞ」
「――――えっ!?」
その言葉にフランの血の気がさっと引いた。元々白かった顔が更に白くなる。
「ゴルドー伯父さんを……!」
「そうだ」
引いた血の気が戻り始めたフランの体全体から魔力が噴き出した。それは火山が炎を激しく吐き出すかの如く、宙へと立ち昇る。
彼女の時間の流れは遅く、踏み出す一歩が重く、四肢に宿る魔力が強くなる。真紅の瞳が輝きを帯び、男だけを映し出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます