掘り出し物Ⅵ
伯爵邸に到着後、メリッサに例の発見物を任せてある場所へと向かう。
クレア自身は少しばかり嫌そうな顔をしていたが、行かないわけにはいかないのだ。辿り着いた扉の前でクレアがノックをすると、中からビクトリアの返事があった。
「母さん。マリーの特訓は順調?」
「あら、クレア。あなたが来るなんて珍しい。てっきり、二度と来てくれないと思ってたのに」
「あたしだって来たくて来てるわけじゃないから。ただ、マリーが心配なみんなを連れて来ただけ」
クレアの後ろから続々と扉を通ってユーキたちが入ってくる。
まだ陽は落ちていないのに煌々と部屋を照らしているのは魔法石のシャンデリア。先程、クレアと話をしていた舞踏会に使えそうな大きな部屋だが、調度品があまりにも少ない。絵画であったり、壺であったり、そう言った物が一切ない。唯一存在しているのは、大きな水瓶が一つ。ビクトリアの横に鎮座している。
その殺風景な光景に違和感を感じるユーキだったが、その理由はすぐ目の前にあった。
「お、ユーキたちも来てくれたのか」
「何だ……その……え!?」
ユーキは一瞬、目の前の光景に呆気に取られて、言語中枢が麻痺してしまった。
マリーの両手にはバレーボールくらいの火球が浮かんでいる。それだけならば、火球を使うためのオドがマナに侵食されない様に、一定量の魔力を注ぎ込む魔力操作の練習だということは、ユーキでも想像がついた。
しかし、その訓練中のマリーの周りには水の球が何個も浮かんでおり、時折、マリー自身や両手の火球に向かって突進していく。それをひたすら避け続けているのだ。
ユーキたちに声をかけてきたが、その顔は汗にまみれ、表情は引き攣っていた。
そんな彼女の顔面と腹、両手の炎に水の球が炸裂する。
「がぼっ!?」
「油断しない。さっきよりも足が動かなくなってきてるから、もう少し身体強化も上手く使った方がいいわね」
床が水浸しになるが、ビクトリアが杖を床を二度叩くと水が集まって水球を形成していく。
「そうとはいえ、大分慣れてきたかしら。少なくとも火球の形が崩れることはなさそうね」
水球を水瓶の中へ戻しながらビクトリアが背を向けた。
「今日はここまで、せっかくお友達も来ていることだし、汗を一緒に流したら、夕ご飯にしましょうか」
「よっし。じゃあ、今日のノルマは合格……だな」
「えぇ、クレアは身体強化に伸びしろを見出したけど、マリーは私に似て攻撃魔法の伸びしろがありそうね。まぁ、二人とも成長途中だから、磨けばどちらも光りそうだけど」
ビクトリアがクレアへと視線を送るが、クレアは首を振った。
どうやら、クレアとしてはあまり興味がないようだ。そもそもクレアは、(少なくともユーキが見ている限りにおいて)あまりビクトリアと魔法に関することを話そうとしていないようにも見える。
「言ったでしょ。あたしは、そっちの道に興味はないって。後、マリーが本当に嫌だっていう時には無理させないでね」
「当然よ。逆にあなたがやりたいっていう時は、いつでもできる準備はしてあるからね」
「冗談もほどほどにして」
冷たく言い放つとクレアは踵を返す。
まるで一秒でも早くこの部屋から出て行きたいといわんばかりだ。
「ユーキ。悪いけどマリーたちとお風呂に入ってくるから。後でもいい?」
「あぁ、風呂の使用可能時間は、オースティンさんか誰か……手の空いてる人に確認するよ」
「僕はまだ仕事があるから一緒に入られないかも。ユーキ、君は僕のことは気にせず一人で行ってくれ。
フェイがわざと強調して行ってくるのは、恐らく今朝のことを知っているからだろう。
ユーキは背中に悪寒を感じてしまい口の端が痙攣してしまう。
「(万が一、があったら、今度こそ殺されそうだな……)」
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