復興作業Ⅳ

 街の中でギルドへと訪れると、そこにはギルドの職員が総出であちらこちらに走り回っている姿が見えた。職員の一人を呼び止めてみると、その返答は驚くべきものだった。


「冒険者の大半が、昨日現れた魔物を恐れて城壁の修復依頼を受けてくれないんです。仕方ないので修復に必要な素材や壊れた民家の撤去などに回ってもらってるんですが、人手が足りなくて……」


 そんなことを言われてしまえば、当然、ユーキたちは城壁に向かわざるを得ない。急ぎ足で向かうと、大勢に騎士たちが鎧も着ないで作業をしていた。

 穴の開いた城壁は土や岩などで塞がれているが、街を覆う結界を抜きに考えると魔法に対しての防御力はほとんどないと言っていいだろう。

 騎士たちが壊された時に吹き飛んだ岩を必死に運び込み、老兵の指示の下、一から積み上げ直していく。直方体の石が幾つも並べられていくが、集められた石の多くが罅や割れたものが多く、使い物になっていなかった。


「まさか、この場で割れた石を作り直すわけにもいかないし、かなり時間がかかりそうだな」

「ちゃんとしたものを作ろうとすると手間暇がかかるのは仕方ないです。でも、これだけの量をどうやって用意するんでしょう。父さんや伯父さんだったら上手く手配できたかもしれないけど……」


 来てみたはいいものの、どこを手伝っていいのか。何が足りないのか。誰に声をかけようかと左右を見回していると、ユーキたちに近づいてくる人影が会った。


「やぁ、こんな所でどうしたんだい?」

「アンディさん。お疲れ様です。実は俺たちにも何か手伝えることはないかと思って来たんです」


 ユーキが言うとアンディは驚いたように見回した。


「そうですか。若い君たちにそんな負担をさせるわけにはいかない、と言いたいところなんですが、見ての通り、人手がかなり足りない状況。これ以上人を増やそうとすると見張りの人員を減らさなければいけなくなります。ですが、人が増えすぎてしまって、逆に動きにくくもなるというジレンマです」

「因みにフェイとクレアは何の作業を?」

「二人とも今は辺りの民家に散らばった石の撤去作業と被害範囲のレポートを作成してもらっています。この通りを二区画程、西に進んでから北側を担当しているはずですから、そちらに行って合流してくれると作業が早く進むと思います。そちらは、ここ以上に人が少ないので、手伝ってもらってもいいですか?」


 ユーキが意見を聞こうと振り返ると、三人とも頷いた。


「わかりました。では、二人に合流して手伝ってきます」

「頼みます。万が一、帝国が攻めてこないとも限らないですからね。一日でも早く元の状態に戻さなければいけないから助かりましたよ」


 アンディに言われた通り、フェイとクレアがいるであろう場所に向けて歩き出す。

 そんな中でユーキは誰にも聞かれないように呟いた。


「RPGのお使いクエストをリアルでやるとこんな気分なのか……」


 ゲームなら移動が面倒くさい、というだけで済む。

 しかし、実際はその場所に移動してから作業が待っているのだ。移動だけで面倒だと言っている暇はない。話し掛ければ一瞬でやったことになるゲームが羨ましいが、手と足を動かさないことには何も進まないのだ。

 ユーキは改めて、見える範囲の建物に目を向ける。

 近くの民家には岩が幾つも直撃したのか壁がへこみ、酷いところは貫通している。窓ガラスが割れ、地面に破片が散らばっていた。

 また、ある建物は何か食べ物を扱っていたのか。所々店内の地面に果汁のようなものがまき散らされており、商品だったとするなら、相当量の赤字になっているだろう。店主が気落ちした様子で店の中の壁についた染みを拭きとっている姿が見られた。

 店主と目が合うと露骨に嫌な顔をされる。


「何だ……?」

「ほら、帝国との人たちも私たちと同じで髪が黒いから……」

「あぁ、なるほどね。……よく昨日までに勘違いされずに済んだな」


 下手をすればスパイ扱いされて袋叩きに会っていたかもしれない。そう考えると、恐ろしいものがある。


「帝国側からこちらの国に入る場合、かなり厳しい審査がされるから。それでも全員を防げるわけじゃない」


 実際にスパイが王都に侵入した挙句、貴族の子女の誘拐を企んだこともあった。そう考えるとユーキやサクラに向けられた視線は、このような状況下で仕方のないものかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る