渾沌はただ嗤うⅥ
砦へ辿り着くと城壁にいた騎士とビクトリアが話している姿が目に入った。
「ビクトリア様!」
「アンディね。ちょうど、ここに来た騎士たちからも話を聞きました。どうやら、かなり危険な魔物が出現したようね」
「はい。伯爵が一人で時間を稼いでいますが、剣が一切通じぬ模様。どうかビクトリア様の魔法で討伐していただきたいとのことでした」
「そうですか。街に被害を出さずに魔法を使うとなるとかなり時間がかかる可能性が……」
そう腕を組んで考え始める横で、マリーがユーキの姿を見つけた。
「ユーキのガンドならできるんじゃないか?」
「はぁ? 流石に無理だろ。あんな化け物」
「いや、だって魔法学園の城壁に穴開けられるレベルなんだろ? だったら、母さんみたいな広範囲を吹き飛ばす魔法を使わなくても、十分に対応できるんじゃない?」
その言葉にビクトリアの目線がユーキへと向く。
「ち、因みにビクトリアさんなら魔法学園の城壁に穴を開けることは……?」
「可能だと思うわ。その代わり炸裂させる場所にもよるけど、最低でも半径五百メートルにいる生物の命の保障は一切ないかしら」
「こわっ!?」
ユーキは目の前の人が本当にすごい魔法使いなのだと再確認する。半径五百メートルというと、下手をすれば、かなり大きい学校の土地全てを包み込んで、お釣りができてしまうくらいの広さだ。通常弾頭の弾道ミサイルが着弾するのと同程度と考えると恐ろしくなるのも当然だ。
「後、結界の修復に手を加えているせいで、少し魔法の制御が甘くなってるから誤射しやすいけど、そのあたり危ないのよね」
「じゃあ、せめて城壁外に吹き飛ばしてからじゃないと危険ですね。伯爵にそれを伝えて、ビクトリア様が攻撃すれば――――」
「――――いや、ここはマリーに任せましょうか」
さらっとビクトリアは本人のいる前で爆弾発言を行う。
それを聞いていたマリーはもちろん、騎士たちや果ては近くで見守っていたクレアも驚愕の声を上げる。
「何驚いてんの。後方支援の物資を焼き払ったのはマリーだし、実力はある程度のレベルまではあることは保証する。ついでにあの人ですら手こずった魔物を倒せたら、上々の出来ってこと。もちろん、一人で倒せなんて言わないし、私もフォローしてあげる前提の話だけど。それに他の冒険者の方々にも手伝ってもらえば、何とかなるのでは?」
「ま、まぁ、間違ってはいないのですが、マリー様が前線に出ることに不安とかないんですか?」
「まさか。私の子供よ。魔法を使おうが使わまいが、自分の力で何でも切り開いていけると信じているわ」
「あー、出たよ。この根拠のない親バカ論理……」
アンディが普段言わないような声とセリフを言ったので、ユーキは思わずぎょっとしてしてしまう。対してフェイは涼し気な顔で見守っていた。
「あの人がダメでも、瞬間多重障壁を展開して外まで吹き飛ばしてもいいし、いくらでもやりようはあるわね。ここまで破壊されたなら、いっそ街自体もリフォームしていいかもしれないし、派手に暴れてみるのも面白そうね」
「母さん。それまで住民の住むところや仕事はどうするつもりですか。思い付きで振り回される方々の身になってください」
クレアが大きな声でビクトリアの前に進み出る。
もしここにライナーガンマ家の某氏がいたら確実に、お前が言うな、とツッコミを入れていただろうが、ユーキはその考えをこっそりと胸の奥にしまっておく。
「あら、冗談よ。それよりクレア、あなたも一緒に来るかしら?」
「そ、それは……」
途端にビクトリアから視線を逸らすクレアだったが、マリーがすかさず手を取った。
「姉さん。あたしだけじゃ不安だし、一緒に来てくれないかな。もちろん、みんなも」
その顔はサクラやアイリス、フラン。ユーキやフェイ。そして、その他多くの人たちへと向けられていた。
「さっきも物を燃やすだけで人なんて攻撃できなかったし、父さんが苦戦するような魔物をあたしがメインで戦えなんて言われても、正直無理だからさ。できれば助けてほしいな、なんて」
その言葉に周りにいた人たちは顔を見合わせた。表情を見るに答えは最初から決まっているようだ。
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