火力戦Ⅲ
部屋に集まったユーキたちを伯爵は重い腰を上げて、ゆっくりと見回した。
「ここの守りは最小限にして、騎士と冒険者による城壁の防衛を行う。既に騎士たちは空が明るくなる前に配置についている」
「それで、あたしたちはどうすればいいんだ?」
マリーが真っ先に声を上げると、伯爵は言い辛そうに目を細める。
横にいるビクトリアも目を伏せたまま一切、身動ぎしない。
「フェイは俺の側で緊急時の伝令兵に」
「了解しました」
フェイが一歩前に出る。
その表情に恐怖の色はなく、勇ましさに溢れていた。
「クレア。お前は客人たちと共にここで籠城だ」
「……わかりました」
「父さん! あたしは――――」
「話は最後まで聞けっ!!」
マリーが口を挟もうとした瞬間、見えない何かが吹き荒れたような気がした。まるで突風にあったかのように、体中に衝撃が走る。
「……ユーキ君。申し訳ないが、君には城壁から狙撃をお願いしたい。もちろん、魔力を使い切ったら後ろに下がって休んでくれて構わない。それくらい君の戦力は貴重なんだ」
「――――わかりました」
ユーキは深夜にガンドを放った時に、既に問われる前から覚悟を決めていた。
自分の力で少しでも早く、戦争を終わらせるのだ、と。
「そして、マリー。お前は母さんと一緒に行動するんだ」
「え……!?」
「前にも話をしていただろう。お前の魔力制御にはロックがかかっている、と。それを外して魔法を使ってもらう」
唖然とするマリーに伯爵は言葉を続ける。
「私には及ぼないまでも、一撃で部隊を壊滅させるくらいは可能なはずよ」
「それじゃ、あたしが前線に?」
「そうよ。怖いかしら?」
「はっ。望むところだ。この街を救うためなら、いくらでも杖を奮ってやるさ」
その言葉を聞いて、クレアの顔が曇る。
しかし、それにマリーは気付いていない。
「そう……。なら準備をしなさい。私の箒に一緒に乗って、上空から焼き尽くしましょう」
「待って、母さんが本気で魔法を放ったら、辺り一帯が焼け野原になってしまう。それは、どうするつもりなんですか」
「――――」
「答えてください。父さん!」
クレアが伯爵へと詰め寄る。
この作戦を取ると言うのならば、城壁で耐えている間に敵の本隊を強襲し、打撃を与えて撤退させる。そのような展開が予想される。だが、それほどの魔法を撃てば、かなりの広範囲が最低でも一年以上は使えなくなる。
それは伯爵自身が痛いほどわかっているはずだ。
「……命無くして、繁栄無し。土地はいくらでも開墾できる。食料も金を出せば分け与えることはできる。だが、失った命だけは帰ってこない。ならば我々ができることは、一つだけだ。被害の少ない内に敵を退けること。帝国の火力が城壁を崩すのが先か。ビクトリアたちの炎が敵を焼き尽くすのが先か。時間との勝負だ」
「それで……!」
「それが戦争だ。理想論だけでは誰も救えない。それとも、
「――――ッ!」
クレアが伯爵を睨む。
伯爵もまた、それを睨み返した。
「姉さん。大丈夫だって――――」
「大丈夫なわけないだろ! あんた、自分が何をしようとしてるか、わかってんの?」
「あらあら、それ以上はいけないわね」
ビクトリアが杖を振ると急にクレアの声が聞こえなくなる。
いや、そればかりではない。急にクレアが首を抑えて、苦しみ始めたからだ。
「まさか……!?」
ユーキたちは以前に見たことがあった。アイリスが暴走した時に、クレアが放った風魔法。
あの時は酸素を減らすだけだったが、更に真空の層が挟まって、声を遮断している。
一瞬、嫌な予感が全員に走るが、その魔法はすぐに解除された。肩で息をするクレアにビクトリアは静かに告げた。
「あなたには、口を挟む資格がないの。わかるかしら? マリー、着いてきなさい。ポーションを持って、出撃するわよ」
「あ、うん……」
何が起こったか、わからないままマリーはビクトリアへとついて行く。
ユーキもサクラも、アイリス、フラン、そしてクレアもフェイも。誰も声を出すことができなかった。
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