第15話
あれから山本は小豆島で醤油屋でバイトをしながら流木などを集めてはアート作品を作っていた。手先が器用な山本は、そのうちに有名なアーティストになっていった。しかし、頑なに顔を表に出すことは拒んだ。そしてそのミステリアスさからまたどんどん人気が高まっていくのであった。ついにはアートの作品だけで食べていけるようになった。
そんな中、瀬戸内国際芸術祭で記者が山本にインタビューに来た。山本は頑なに断ったが、ここまで人気がでたのでさすがにこれ以上隠すこともできず、顔出しNGで取材を受けることにした。
「桜井大河さん、この素晴らしいアートはどのようにして創られたのですか?」
桜井大河とは山本がアーティストとして使う名前である。
「これはかつて愛した女性に影響されて創ったものです。」
などと適当に取材を終えるのであった。
「顔は撮らないので、アートと体を写させてください!」
「それならばかまいませんよ。」
「いきますよ!カシャ!」
こうして山本は美術雑誌に載ることになった。
「外はもう初春か。もうすぐ桜がさくな。日奈子さんは天国で何してるんだろうか...。なんとかしてお墓参りに行きたいな...。」
などと思うが、桜井の場所を聞けば足が着くから聞くに聞けないのであった。
そんなとある日
「ごるぁ!山本!」
と早川は山本をぶん殴った。辺りの作品が飛び散った。
「なんだよあんた!あっ!早川!」
と山本も身構えて
「てめぇが桜井さんを殺したんだろ!」
と胸ぐらを掴みながら早川が突っかかる
「俺はやってない!彼女は自殺だ!」
と反論をする山本
「じゃあ何で逃げた!」
とその問に山本はへなへなと崩れ落ち
「俺は本当に彼女を救えなかった。彼女に一番近かったのに。彼女の痛みを分かって、分かち合ってあげられなかった。そして彼女と一緒に死ぬという選択もできなかった。ただただ弱くて臆病な人間だった。だから私は逃げた。卑怯者だ。気が済むまで殴ってくれ。」
山本は真の髄から魂を持って行かれるように気が抜けた。
「俺だって愛した女性だ...。それが自殺だなんて...。信じられるかよ!お前が殺したんだろ?なぁ?そうだろ?そう言ってくれ!じゃないと俺は誰を恨めばいいんだよ!」
その時、まだ咲いてもいない桜吹雪がひゅーっと吹き抜け桜井の言葉が聴こえた
『お二人とも、もういいのですよ。私は二人にも愛されてとても幸せ者です。二人の要望に応えることはできませんでしたが、私を浮かべるためにお香を二人で備えてくれませんか?よろしくお願いします。』
そう言って桜吹雪はやんだ。
「桜井さん...。桜井さんの言う通りだ。山本、墓参りに行こう。」
「私もそう思ってたところですよ。」
そう言って二人は岡山へと帰っていった。
桜井のお墓参りを二人はした。桜井の声はもう聞こえなかっただが、二人の心中は変わっていた。
早川が
「俺達は同じ女を愛した似た者同士かもしれないな。ただ、境遇が違っただけで。」
山本が
「そうかもしれません。同じ女性を愛した、ただそれだけなんです。さて、飲みにでも行きませんか?」
「いいね!やっとあんたを信用できるよ。」
「私もです。」
2人が交わした盃には桜の花びらがひらりと落ちて来たそうな。
Contrast Black 秦野 駿一 @kwktshun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます