第13話

かくして山本は桜井の家で一緒に生活することとなった。山本と桜井を結ぶロープはそのままだった。そんな中、桜井の家に尋ね人が来るのであった。


「ピンポーン」


とインターホンが鳴り、山本が


「はーい!」


と出るとそこには早川がいた。


「(あ、またこの人かめんどくさいな。)」


と思っていたら


「あ、お前か!山本大悟!どうしてお前がここに!」


「(やっぱり。めんどくさい。取り合えず適当に答えるか。)」


「それはこれを見てください。」


と桜井と繋がっているロープを見せた。すると


「どういうことだ?事情を話せ。」


と早川が言ってくるので


「これはですね、日奈、桜井さんが私が逃げないようにとロープで1.5m以内にいるようにしているそうです...。」


と答えると、早川は


「クッ!お前は桜井さんを独占したつもりだろうな!」


と言ってきて、


「(あー、もっとめんどくさいこの人は...。)」


と思ったので、


「これは北野武監督のDollsと一緒ですよ。ずっと紐で繋がれてて無言のままついてくるというやつです。割とやっかいですよ。」


と答えた。そうすると早川は


「俺にはそれでも羨ましい。ないものねだりかも知れないが、愛する女性がどのような形でも側にいてくれるなら...。」


と言ってくるので、少し面白くなって


「フフ。それは私も同意ですね。」


と答えた。そして最後に早川は


「間違えるなよ!俺はただ一歩引いてお前を見ているだけだからな。何かあったらまた刑務所にぶち込んでやるからな!あとこのケーキとシャンパンはお前らで食え。」


と捨て台詞を吐いて帰って行った。


「はぁ。めんどくさいけどなかなかおもしろい人だな。で、日奈子さんはなんでずっと黙ってたの?」


と山本が桜井に問うと


「途中で入ろうとしたんだけど、大悟さんがDollsみたいっていうから、もうそういうことにしたの。」


「あはは!なるほど!それでもあの人を邪険に扱っていいの?」


と山本がそう聞くと桜井は


「本当はダメね。あの人も恩人の一人だもの。それより大悟さん、今からしない?」


「え?セックス?あ、日奈子さんもう酒臭い!真昼間だからダメ!」


まだまだ楽しそうな日常に思えるところだった。


ほどなく時は経ち、桜井の飲酒と喫煙の量は増えていった。都合のいい時だけロープからフックを外して飲酒や喫煙をし、都合の悪いときだけ山本を束縛した。温厚な山本でもしばしば桜井を叱ったが、それよりも桜井がどんどん気分的に沈んでいくことが怖くて叱ることもできなくなっていった。時折、早川が桜井の家までお見舞いに来ることは結構あったが、面会を何度も断った。結局、交通事故の一件からどんどんと憔悴していく桜井であった。そんな中、桜井が


「大悟さん、ちょっと近くのコンビニまでスイーツを買ってきて。久々に食べたいわ。」


と意思と主張をはっきりとしたので山本は嬉しくなり、


「わかった!俺買ってくるよ!」


と急いで山本は意気揚々と買い物に出て行った。


そして山本が帰ってきて違和感に気づいた。


「なんか臭いな...。日奈子さん?」


と山本が桜井を見つけると桜井は台所にへたり込んでいて


「大悟さん、これ以上近くによらないほうがいいわ。この辺全部ガソリンよ。」


「え?どういうこと?何考えてんの?」


「もう私には耐えることができないわ。あの事故以来、私の中で何かが心を少しずつかじっていったの。それがもう少しで全部なくなるところ。そうなる前に私は死ぬわ。」


と、タバコを片手に桜井は死を決意していた。


「バカなこと考えるなよ!日奈子さんには俺がいるだろ!?俺が治してみせるよ!俺達が一緒にいた時間はなんだったの?無駄な時間だったわけ?」


と必死に桜井を制止しようとするが、桜井は


「メンヘラなら分かるわ。私がこんなになったらいつか大悟さんも私を見限ってしまうってこと。今だからそう言える。私がどんどん重くなると一緒に潰れちゃう。だからもう私は自分で清算するわ。」


そう言って桜井はタバコをポトリと床に落とした。たちまちガソリンに火がつき、気化したガソリンにも火が回って爆発のような状態になった。それに飲み込まれそうになったやまもとは瞬時に身をかがめ玄関へと走って行った。

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