第8話
それからそこはかとなく態度がおかしい桜井だった。さすがにそれは山本にもわかった。
「日奈子さん、なにかあったの?最近なんだか変だけど?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。強いて言えば風邪をひいてることでしょうかね?」
「え?大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。それより今度の夜はちょっと友達と夕食を一緒にするから、夕飯を作っておくね。」
「はい。それより日奈子さんはそんなに私に時間を割く必要はありませんよ。もっと自由に行動してくれれば...」
「ほんっと大悟さんって頭にくる!私がこうして大悟さんに寄り添っても何も感じないし、ずっと引け目を感じてるし、私を抱く度胸だって...。はぁ。もう嫌になるわ。そんなわけで今度の夜はいないよ。」
「わかりましたよ。私も男だ。抱くだけならできる。どうなっても知りませんよ?」
「もう。そういうことをするならもうちょっとロマンティックにしてほしいわ。」
そう言って桜井は山本のベルトを外しだした。
「ちょっと待って!日奈子さん!」
「ん?」
と桜井が山本の顔を見上げた。
「今、緊張して立たない...。」
「はぁ.........。」
深いため息をつく桜井。つくづく滑稽なこの二人。ある意味の芸術品である。
「立たせるところから始めるとなんだか負けたみたいで悔しいわ。次にするわ。」
「すいません...。」
こんなにアンバランスな山本を見ていると安定な早川の顔が思い浮かぶ。でも早川に身を委ねるのはしっくりこない。やはり山本じゃないと桜井は嫌なのだ。山本のダメさ加減、山本の不器用さ。そんなところがもうたまらないんだ。子猫がうまくじゃれて遊べないようなそんな可愛らしい姿が山本にはあるのだ。くすぐらせる母性本能。もうたまらない。
「取り合えず仕事に戻るわね。」
そう言って桜井は仕事に戻った。
「しかし日奈子さんもいい人見つけたらいいのになぁ。」
と山本はまた一人呟くのであった。
とある夜。
「大悟さん、いい?夕飯はここに作ってあるから食べてね?私は出かけるから。」
「日奈子さん、今日会う人は男の人?」
一瞬、桜井の手がピクっと止まって、桜井は答えた。
「そうよ。なんでそんなこと聞くの?」
「いや、桜井さんにはそういう男の人がいてもおかしくはないなと思って。」
「いい?大悟さん。今まではっきり言わなかったけど、私はあなたのことが『大好き』なの。それを承知で男の人と会いに行くの。その意味は特にないけど。そういうことよ。」
「え?そうだったの?私は女性関係は本当に鈍感でタイミングが悪くてフラれることが多かったから今回もそれなのか...。」
「『大好き』なあなたが応えてくれないから男の人と会うんです。それでも意味ないとは思うけど。はぁ。悔しいけれど惚れたのはどうやら私の方だったみたい。長渕剛の純恋歌だわ。」
「日奈子さん、割と渋いの知ってるんですね。」
「そんなのどうでもいいわ。『大好き』なあなたが私の好意をどう受け止めてくれるか教えてちょうだい。」
「わかりました。」
「それじゃあ行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい。」
そう言って桜井は山本の家を後にして早川の元へ向かった。
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