第2話

公園で会うことが続いていたのだが、早川が来る時間が最近少し遅くなった。昼休みの後に来るようになった。こうなると山本は気になって


「桜井さん、昼休み過ぎてますけど大丈夫なんですか?」


「うん。大丈夫よ。午後一番は書類の整理だから、私は午前中に片付けちゃうの。だから心配しないで。ところで山本さんはどこにすんでらっしゃるの?」


「ああ、私はあの美人座のうら辺りのコーポに住んでますよ。」


「そうなのね。これからはお夕飯も作ってあげるわ。」


「ええぇ!そんなのダメですよ!」


「何がダメなの?」


「だってそこまでしてもらえませんよ!それに男と女ですよ!?」


「ふふ。山本さんって意外とシャイなのね。そんなこと気にしなくても大丈夫よ。住所をこの紙に書いて。携帯は持ってます?」


「一応持ってます。」


「じゃあ、番号教えて。仕事が終わったらかけるわ。」


「わかりました。」


電話番号を交換して


「それじゃ、私は戻るわ。また夜ね。」


夜になり桜井から山本に電話があった。


「山本さん?桜井です。今仕事が終わりました。今から買い物して行きますね。」


「はい。分かりました。」


なんとも押しの強い女性だな、と山本は思った。


そして桜井からまた電話がかかってきた。


「このコーポでいいの?ちょっと出てきてくれない?」


「ああ、分かりました。案内します。」


そう言って山本は桜井を案内した。桜井を家に入れると


「物凄く殺風景ね。でも凄く綺麗にしているのね。」


「いやはや。何も持ってないからですよ。」


「ふふふ。ミニマリストね。牛筋の煮込みとけんちん汁でいいかしら?あと、ワインも買ってきたわ。牛筋の煮込み用と飲む用とね。」


「何から何まで...。ありがとうございます。」


「コンコンコンコン」


桜井は台所に立ち料理をしだした。こうしてみると小柄な人なんだなと山本はそう思った。


「はい、できたわ。いただきましょう。」


「いただきます。」


「めちゃくちゃ美味しいです!」


「そう?お口に合ってよかったわ。ワインもどうぞ。それよりお酒飲めるか聞いてなかったわね。飲めるの?」


「普通程度には飲めますよ。ありがとうございます。」


料理を食べ終えると桜井は少し酔ったみたいで


「山本さんは死んだ私の父に似てるのよね。なんだか不器用そうな感じが。その哀愁漂うところが何とも言えないのよ。」


「はは。そうなんですね。ん!?」


と、途端に桜井は山本にキスをした。


「ダメですよ、桜井さん!酔いすぎです!」


「そうね。少し酔いすぎね。また今度料理しに来ていい?」


「それは構わないですけど、今日みたいな真似はやめてくださいね。」


「わかったわ。」


そう言って桜井は山本の家を後にした。

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