道場訓 五十五 勇者の誤った行動 ⑳
「アリーゼ、これは一体何の真似だ! どうしてこんなことをする!」
俺はアリーゼに対して怒声を上げた。
だが、アリーゼはまったく顔色を変えずに俺を見下ろしている。
それはカチョウもカガミも同様だった。
直後、俺の脳裏に嫌な記憶が思い出される。
全身を
それはケンシンを俺たちのパーティーから追放したあと、意気揚々と向かったBランクのダンジョンで味わった
もう二度とあんな魔法と屈辱は味わいたくないと思ったが、まさか仲間からその
だからこそ、俺は必死になってアリーゼに
なぜ俺に〈
「どうして? アンタのこれまでやってきたことを振り返ってみなよ」
アリーゼは性格が一変したように言い放った。
「このクズ勇者が! よくも【断罪の迷宮】では私たちを放って逃げたわね! アンタは口では助けを呼びに行ったとか何とかほざいてたけど、絶対にそんなことなかったわよね! もしもあのとき別のパーティーが助けてくれなかったら、本当に私たちは死んでたのよ!」
そして
「だから、あれから私たちはアンタに対する考え方を変えたのよ! もうアンタみたいなクソ野郎についていくなんてウンザリ! いつか機会を見つけて復讐してやるってね!」
何だと?
俺はあまりの驚きに目を丸くさせた。
まさか、アリーゼがそんな大それたことを考えていたなんて。
などと思ったとき、俺はふと気づいた。
うん?
俺はアリーゼからカチョウに目線を移した。
すると、俺の視線に気づいたカチョウは口の
「そうだ。お主に失望したのはアリーゼだけではない。
カチョウ、お前もなのか?
俺はぎりりと奥歯を
「仲間をダンジョンに置き去りにするような外道になどもうついてはいけん。お主についていけば今後も【断罪の迷宮】のようなことがあるだろうし、あの修道女のようなケンシン
しかし、とカチョウは俺からカガミに顔を向けた。
「
俺は何にも言えなかった。
カチョウとアリーゼの態度からは、本気のオーラが
「お前ら……俺をどうする気だ」
やがて俺は背中に冷や汗を
正直なところ、この2人が何を望んでいるのかはすぐに理解した。
この2人は俺が【断罪の迷宮】で2人にしたことを今度は俺で実行する気なのだ。
「アンタ、本当に馬鹿なのね。まだ、分からないの? アンタが【断罪の迷宮】で私とカチョウにしたことをアンタにするに決まっているでしょう」
ゾワッ、と全身に
「ま、待て! まずは話し合おう!」
俺は必死になって2人に
「お前たちの俺に対する気持ちは分かった! だが、身体を動かせない俺をこのまま置き去りしたら俺はジャイアント・エイプの
「そうね。アンタがここで死んだら王宮からの
アリーゼの言葉にカチョウが同意する。
「うむ、今回の
「馬鹿を言うな! 俺の成功はパーティーの成功、パーティーの成功は皆の成功だろうが!」
「はあ? 思ってもいないことを言うなってんの。何がパーティーの成功は皆の成功よ。パーティーの成功はあんただけの成功で、失敗は押しつけられるなら私たちに押しつけるんでしょうが」
ぎくり、と俺は顔を引きつらせた。
「どうやら図星のようだな、キース」
表情から俺の心情を
カチョウはおもむろにため息を吐いた。
「まあ、この際お主がどう考えていようと構わん。もう、
「おいおい……嘘だろう? 俺を見限るなんて冗談だよな?」
「こんなときに冗談など言うか。
そうカチョウが冷たい声で言ったときだ。
ホギャアアアアアアアアアアアアア――――ッ!
もうすぐ近くでジャイアント・エイプどもの叫び声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます