道場訓 二十二 守るべき弟子のために
遠くのほうに大量の
耳を澄ませば地鳴りのような音もどんどん近づいてくる。
魔物どもが俺たちという新たな
「エミリア、お前に一つ課題を与える」
俺は押し寄せてくる魔物どもを
「か、課題ですか?」
「そうだ。お前にはこの場から逃げることを禁ずる。これから
「お主、正気か!」
「この場から逃げることを禁じるだと! それでは魔物どもに囲まれても逃げるなと言うのか!」
「キキョウ・フウゲツ、お前も相当に
「確かにそうだが……それでも逃げるなとはあまりにも」
「逃げません」
エミリアはきっぱりと答えた。
「ケンシン師匠がそう言うのなら、たとえ何十の魔物に襲われようとも絶対に逃げません。私はケンシン師匠の弟子になると決めたのですから」
そう言いながらもエミリアは怖くて仕方がないのだろう。
けれども、俺に伝えた言葉に
俺を見つめてくるエミリアの目の奥には、俺を心の底から信じている信頼の光がはっきりと輝いていたのだ。
このとき、俺は初めてエミリアが愛おしいと思った。
恋心からという意味ではなく、これから
同時に俺は決心する。
絶対にエミリアだけは死なせはしない、と。
「エミリア、右手の
俺がそう言うと、エミリアは素直に右手の
すぐに俺はエミリアの右手の
直後、俺は自分の
「あっ!」
エミリアは身体を震わせながら全身を大きく
しかし、それも一瞬のことだった。
すぐにエミリアは普通の状態になり、自分の右手の
「俺の
エミリアは自分の右手の
「ち、力が……身体の底から今まで感じたことのない力が
やはり、エミリアには
「具体的に身体はどんな状態になっている?」
「状態……ですか?」
「たとえば身体が熱くなっているとか、逆に寒くなってるとかだな。他にも身体の反応として全身の軽い
俺の質問にエミリアはすぐに答えた。
「私は身体の中が光っているような感じでしょうか……いえ、もっと具体的に言うのなら、握り
これには俺も驚いた。
エミリアは強引に
その
もちろん、流し込む
けれども適切な量を流し込まれて
という八つの感覚だ。
そしてこの
他の七つの感覚のときには肉体自体に変化はないものの、
どれぐらいかと言うと魔法使いの〈
エミリア本人はまだ自覚していないだろうが、
しかし、万が一ということもある。
「エミリア、先に謝っておく。もしも痛かったら許してくれ」
俺はそう言うと、「何をですか?」と訊き返そうとしたエミリアにそれなりの力を加えた横蹴りを繰り出した。
左足の
やがてエミリアの身体は何度も転がりながらようやく止まった。
「この外道が!
キキョウは俺がとち狂ったと勘違いしたのだろう。
今にも大刀で斬りかからんばかりに全身から闘気を放出する。
だが、俺はそんなキキョウを無視してエミリアに声をかけた。
「エミリア、どうだ? 少しでも痛みを感じるか?」
数秒ほど経ったあと、エミリアは勢いよく跳ね起きた。
そしてエミリアは信じられないといった顔で自分の身体を見回す。
「全然、痛くありません。蹴られた場所も地面に打ちつけた場所も……どこも痛くありません」
俺は心中で大きく
どうやら
「驚かせてすまなかったな、エミリア。だが、これでお前の肉体は
直後、俺はエミリアから魔物どもに視線を移す。
「俺も俺の役目をしっかりと果たしてくるからな」
俺はエミリアから離れると、ゆっくりと魔物どもに向かって歩き出した。
「じゃあ、
「け、ケンシン師匠!」
不意に俺は立ち止まり、顔だけを後方に振り向かせた。
何か言いたそうなエミリアと目が合う。
「あの……その……こういうときに何とお声をかければよいのか」
俺はフッとエミリアに笑みを向ける。
「馬鹿だな。お前も
しばし考え込んだエミリアは、やがて俺にかけるべき言葉を思い出したようだ。
「ケンシン師匠――ご
そうだ、
「
俺はエミリアの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます